第951話
正人の光を携えた剣が、魔王の身体を斬り裂く。
「ぐふっ!」
正人の剣は魔王の肩口から胸まで斬り裂いたように見えた。
魔王は正人の剣を肩口に抱えたまま膝をついた。
「見事だ‥勇者よ。」
魔王は俺の剣の衝撃で鎧兜が剥がれ、その表情が見えていた。
その表情はスキルに飲み込まれていた時と違い、目に理性が宿っていた。
「見事って、俺ごっつぁんしただけっすよ。」
「ふん。この状況はお前がもたらしたものだろう。あのおかしな程力を持った奴を味方に取り込んだのもお前の力だ。」
おい、俺の方を見るな‥
「それに今の一撃はスキル【魔王】の力を断ち切る程の光属性の力だ。これは間違いなくお前の力だろう。」
「あ、それは俺の頑張った感じが出てるっす。マルコイさんに言われて、ずっと力を溜めてたっすから。」
魔王の表情が弛む。
「魔族はな‥いや、魔族とはいえ、この世界で暮らす1種族だ。俺はこの世界で魔族が安心して暮らせる場所を作りたかった。そのためにはどんなこともするつもりだった‥まあそれを餌にエルフの女王に嵌められたのだがな。俺がスキル【魔王】を抑え、人族や獣人族などの他種族と同等の力を示し、豊かな大地へ魔族を導きたかったのだ。」
他の魔族は色々と暗躍していたみたいだが、確かに魔王だけは真っ直ぐな奴だった。
純粋に自分たち種族の未来を考えていたわけか‥
以前の神聖国のような国の事を考えると、どちらが正しかったのかわからなくなるな‥
もちろん武力行使は悪だ。
しかしやり方が悪かっただけで、魔王の考え全てが悪かと言うとそうではない。
人族の中には同じ種族すら食い物にする奴らがいるのだ。
自分の種族の事を考えて動いていた魔王は、魔王なりの正義の元で行動していたはずだ。
「これでスキル【魔王】が消えてくれたらよかったのだがな‥そんな事は許してくれないようだ。このダメージだ、おそらく俺の意識は深く沈んで浮かんでくる事はないだろう。勇者よ、そして強き者よ。後始末を頼む。やはり俺ではスキル【魔王】を抑える事は出来なかった。トドメを‥【魔王】にトドメをさすがいい!」
魔王の目にまた狂気が走る。
「ぐがっ!がァァァァァァっ!」
スキル【魔王】に飲み込まれたか‥
(ピコーンッ)
『模倣スキルを発現しました。スキル【魔王】を模倣しました。』
「なっ!」
スキル【魔王】を模倣しただと!?
そ、そういえば確かに条件は満たした気がする‥
スキル【技能眼】でスキルを確認した。
魔王本人から、直接スキル名称を聞いた。
そして‥
スキルの発動を確認‥した‥‥
そりゃ確かにスキル【勇者】も模倣できたのだ。
スキル【魔王】が模倣できてもおかしくはない。
しかし‥
勇者に引き続き、魔王まで模倣するか?
それに‥
『スキル【魔王】を確認しました。スキル【勇者】を使用して統合スキル【カルマカンカァ】を昇華します。』
やっぱり‥
スキル【魔王】なんて模倣したら、絶対何かしらあると思った‥
『スキル【カルマカンカァ】にスキル【魔王】【勇者】を統合します。スキル【ギフトオリジン】に昇華しました。』
スキル【カルマカンカァ】の時は魔力が足りなくて身体の作りを変える程の変化があったよな‥
「ぐあぁぁぁぁっ!」
やっぱりぃぃぃぃ!
スキル【カルマカンカァ】の時を遥かに超える痛みが身体中に走る。
身体中の血が沸騰しているようだ‥
『スキル【ギフトオリジン】を使用するための魔力と精神容量が足りません。使用者の魔力、精神容量を強制上昇させます‥‥‥‥‥完了しました。』
「ちょっ!マルコイさん!?な、なんだ、なんで転がってるんだ?気が触れたか?いや、ある程度は触れてたか‥あ、魔王の攻撃か?」
空中からラケッツさんの声が聞こえる。
攻撃とかじゃない!
いや、攻撃といえば攻撃か?
スキルに殺されそうだ‥
あとラケッツさんは後で物理的にぶっ◯す。
しばらく転がっていたが、だんだんと身体の痛みがとれてきた‥
俺は新しい力を秘めた身体をゆっくりと引き上げた‥
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