第947話

俺は魔王の正面に立ち、剣を振り下ろす。


魔王は小手から生えた剣で俺の剣を受け、絡め取ろうとする。


すぐに剣を手元に引き戻し、更に剣を横に薙ぎ払う。


魔王は剣を小手で受け流し、そのまま俺の横に移動して剣を振るう。


俺は剣の範囲外まで後退して、剣を魔王の剣に叩きつける。


魔王は俺の剣を自身の剣で受け止めるが、魔王の剣は根本から割れて崩れ落ちる。


魔王は身体を側転させ、その場から離れる。


態勢を整えた魔王の小手には、新たな剣が生えていた。


ふむ。


体術もかなりのものだ。


剣の質は俺の物の方が上だが、やつの剣は魔力を使って何度でも生やす事ができるみたいだな‥


それに剣の腕前もかなり強い。

スキル任せといったわけじゃなさそうだな‥


その時、周りを囲んでいた嵐が消える。


魔法の効果が切れたのか‥?


卓の方を見ると、すぐに新たに魔法を使うために魔力を練り始めているところだった。


範囲や威力を調整したから、どれくらい魔法の効果が続くのか把握できてなかったみたいだな‥


俺は魔王が魔法の範囲から抜け出さないように、注意を払う。


すると魔王は何を考えたのか、小手から生やしていた剣を消してこちらに向かってきた。


剣なしで向かってくるだと?


そうか、魔法の効果がなくなったから目を使うつもりか。


しかし何故剣を戻したんだ?


魔王は一直線に俺に向かってくる。


俺は魔王を牽制するために、剣を横に振るう。


すると魔王は身体を屈ませ剣を躱し、そのままの態勢で突っ込んできた。


俺は低い態勢の魔王に向かい、上から剣を振り下ろす。


しかしやはりと言うべきか、魔王は剣を振り下ろした瞬間に身体を半身ずらした状態でするりと立ち上がり俺の腹部に拳を振るってきた。


剣は止まらず、地面を叩く。


魔王の拳は俺の腹部に吸い込まれるように刺さる。


しかし俺は魔王の攻撃を無視して、そのまま剣を横に振るう。


魔王は自身の攻撃が決まった状態だっため、剣を避ける事ができずに俺の剣は直撃した。


俺と魔王は共にその場から吹き飛ばされる。


くっ‥


エンチャント:英雄たる者を使い、かなり防御力を高めた状態だったがダメージを受けるか‥


ラケッツさんとアフロがあれだけ吹っ飛ばされていたのは、ラケッツさんの鎧の威力だけじゃなかったわけか。


だが、この程度なら問題ない。


俺は攻撃を意識して受けたので、態勢をそこまで崩さずにすんだ。


しかし魔王は予想外のダメージだったのか、大きく態勢を崩している。


このまま倒せるとは思えないが、少しばかり大きなダメージを受けてもらうぞ。


俺は魔王に向かって跳躍し、上段から剣を振り下ろす。


避けたとしても、そのまま詰めさせてもらう!


振り下ろされた剣に対して魔王は左腕を掲げる。


剣は魔王の鎧だけでなく、その左腕の肉を斬り落とす。


避けないだと?


まあいい、このまま次でトドメを刺させてもらう!


振り下ろした剣を引き戻し、魔王に向かって突きを放つ。



すると魔王は傷ついた左腕はそのままに、身体を屈めながら突きを躱し、右腕で拳を腹部に向かって突き上げてきた。


魔王の攻撃力に関してはさっき確認した。


これを受けながら、また剣を叩きつけ‥


その時突然悪寒が走った。


この拳を受けてはいけないと‥


俺は頭の中に届いた勘に従い、身体を捻りながら魔王の拳を避ける。


しかし突きで伸び切った腕が避けきれないと判断し、左腕を犠牲にして拳を受ける。


左腕が突然激しい熱を持った。


そう思った瞬間、俺の身体は捩れながら吹き飛んだ。


地面を転がりながら状況を把握する。


左腕は‥


ついてはいるが、あらぬ方向に曲がり骨が飛び出て血が噴き出ている‥


使い物にならない程のダメージを受けている左腕から目を離し、魔王に視線を合わせる。


魔王はそれまで装着していた鎧を脱ぎ去り、今はエルフの城で会った時の姿になっていた。


くっ‥


油断した。


俺はエンチャント:慈愛ある者を発動させ、腕の治療を行う。


魔王は俺の方を見たまま動こうとしない。


しばらくすると、魔王の腕から淡い光が発せられる。


光が収まると、魔王の腕は止血され肉が盛り上がってきていた。


ちっ、魔王も回復持ちか‥


すると魔王の腹部辺りに先程まで着ていた鎧の一部が浮かび上がる。


そしてその鎧の一部は魔王の身体を包むように広がり、先ほどまでと同じような鎧になる。


さすが魔王‥


思っていたよりもかなり強いな‥







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