第948話
腕が熱い‥
エンチャント:慈愛ある者を発動させて回復しているが、かなり深いダメージだったため回復が間に合っていない。
魔王も腕の回復を待って仕切り直せばいいものを、そんな中途半端に回復した状態で向かってくるなよな‥
こっちはまだ回復が間に合ってないってのに‥
しょうがない‥
俺はエンチャント:慈愛ある者を発動させたまま、さらに魔力を練る。
エンチャント:慈愛ある者にエンチャント:守護する者を重ねがけする。
エンチャント:『大賢たる者』
エンチャント:『英雄たる者』よりも防御力が高く、回復に特化したエンチャントだ。
魔王は討伐対象を正人から俺に変更したようで、真っ直ぐに俺に向かってくる。
俺は牽制のため、その場で剣を振るう。
その牽制の攻撃すら魔王は初めからわかっていたかのようにスルリと躱す。
くそ、牽制すら意味がないか。
魔王は俺の懐に潜り込むと、拳を振るってきた。
先程受けたダメージを予想して、他の部位への攻撃を避けるため、まだ完全に回復していない左腕を犠牲にしようと拳の軌道に合わせる。
衝撃と共に痛みが走る。
しかしその場から数歩タタラを踏んだだけで、予想していた程の衝撃はない。
なんだ?
魔王は追撃のため、更に一歩踏み込んできた。
また背筋に悪寒が走る。
これはやばいやつだ!
俺は痛む左腕を庇いながら、大きく後退する。
態勢は崩してしまうが、この攻撃を喰らうよりはマシだ。
顔の前を魔王の拳が通り過ぎる。
大きく仰け反るように避けたため、片膝をついてしまう。
魔王はその隙を逃さず、更に拳を放ってきた。
まずい!
すると鎧を叩くような音がして、魔王の身体が横に吹き飛ばされる。
「マルコイ!大丈夫か!?」
ガッツォさんが駆け寄ってくる。
助かった。
ガッツォさんが魔道具で支援してくれたのか。
「すまないガッツォさん。助かった!」
俺は立ち上がり、傷ついた左腕を癒す。
「マルコイでも梃子摺るのか‥やはり魔王は強いな‥」
確かに。
これほど強いとは思わなかった。
こんな奴を相手にこの世界は正人を送り込もうとしてたのか?
スキル【勇者】ならどうにかなるのか?
しかし奥の方で「マジやべぇ!」とか言っているデカい頭の奴に倒せるとは思えないのだが‥
「弾かれたらまずいと思ったが、マルコイならどうにかするだろうと思ってな。しかし当たってくれてよかった。」
おい‥
ガッツォさん。
自慢じゃないが、俺が作った魔道具だ。
俺が防げるはずがないだろう‥
俺の土手っ腹に風穴が空くぞ。
ん?
そういえばガッツォさんの攻撃が当たったよな?
今まで軌道を逸らしたり掠る程度はしていたが、今の攻撃はモロに喰らっていた。
どういう事だ‥?
スキル【血の盟約】の制限‥
様々なスキルを使用する事ができるが‥
もしかして‥
「マルコイ様!準備完了です!」
卓の魔法の準備ができたようだ。
丁度いい、検証させてもらおうか。
「卓、俺が魔王に突っ込んだら魔法を放て!」
俺はガッツォさんに一つ指示を出して魔王に突っ込む。
「おらっ!」
魔王をその場から動かさないために、速度重視の攻撃だ。
すると卓の魔法がすぐに放たれ、周りに嵐が巻き起こる。
嵐が巻き起こる中、俺と魔王は攻防を続ける。
魔王はまた小手から剣を生やし、俺の攻撃を捌く。
しばらく攻防が続くと卓の魔法の効果が切れた‥
そのタイミングで、俺の剣が魔王に飛ばされる。
その隙を見て魔王の放った蹴りが俺の腹部を直撃する。
防御力を上げてはいるが、胃の中のものが全て出てきそうな衝撃だ。
片膝をつき、俺は魔王を見上げる。
そしてトドメを刺そうと魔王が拳を振り上げた時‥
ガッツォさんの放った光の束が魔王の頭部を直撃した‥
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