第917話

「マルコイ、商人さんたちも全員無事みたいよ。」


よかった。

さすが俺の仲間たちだ。


「ちょ、動いたらあかん!すぐにポーションかけるさかい、じっとしといてや!」


ん?

声がした方を見ると、キリーエがガッツォさんにポーションをかけまくっていた。


「どうした?」


「ガッツォさんが、商人さんたちを守るために身体を張って精霊術を防いだんよ。それでボロボロになってもうて。」


そういえばガッツォさんには防具を渡してなかった‥


それでも身体を張って助けようとするところがガッツォさんなんだよなぁ。


ちなみにモブキャとラタチもガッツォさんを真似しようとしたのかもしれないけど、今は離れたところでピクピクしている。


後方にいたから、精霊術の直撃は受けてないみたいだけど、それでもかなりの威力だったと思うのだが‥


案外しぶといな。


ちょっと面白い‥間違えた役に立ちそうな魔道具の実験をしてもらってもいいのかもしれない。




「マルコイどうするの?獣王様か、王国に報告しないといけないわよね?」


そうだな‥


普通だったら、獣人国に戻って獣王様に報告してから検討してもらうってところなんだろうな。

王国に報告してもいいが、証拠となるものがない。

キリーエの兄貴が証言してくたとしても、エルフが動くまで様子見するだろうな‥


多分それじゃ遅い。


あれだけの武器を少数のエルフが怪我した程度で手に入れたんだ。

準備が整っているのであれば、すぐにでも行動を始めるだろう。


それに段ボールレベルが数人いれば、エルフたちを警戒する程度で集めた兵など一瞬で消し去ることができるはずだ。



「多分、エルフたちは俺たちがさっきの精霊術で死ななかったとしても、ある程度ダメージを受けているし、自国に戻ると思っているはずだ。だったらこのままこっちから攻撃しよう。」


「いいの?マルコイらしくないわね。でもいいと思うわ、ちょっと私もムッとしてるから。でも王国とか獣王様への報告はどうするの?」


「そんなのたくさんいるじゃないか。王国以外の人もいるみたいだし。」


俺はエルフに騙されて消沈している商人たちの方を見る。


「まあ騙されたのは可哀想だが、実際あんたたちがやったのはエルフ国が起こそうとしている戦争に加担したってとこだ。そうなると全員国家反逆罪で罰せられるし、おそらく死刑だろう。だが今からその事を各々の属する国に報告すれば助かるかどうかわからないが、減刑はされるだろう。あんたたちの家族まで罰せられる事はないんじゃないか?」


商人たちはお互いの顔を見合わせる。


「そ、そんな!お、俺はもっと大きな商会の会長になるべき男なんだ!親父やキリーエなんかよりもずっとだ!その俺がこんな所で躓くわけがない!」


キリーエ兄が訳のわからない事を言っている。


君躓くも何も、足の骨折れてますよ。

いや、足の骨どころか身体にある骨という骨にヒビが入ってると思っていいぞ。


「はぁ‥あのなぁ‥お前は今命の瀬戸際にいるんだぞ。王国に戻ってもホット商会のキリーエの兄だから見逃さられるかもしれない。それ相応の金を積んだらな。だけどな‥よく考えろ。お前のその見栄のせいで王国に住んでいる多くの人が命の危険に晒されてるんだ。」


「そ、それは!」


「キリーエは王国だけじゃなく、世界で商いができる人だ。お前が継ぐ予定の商会にも商売相手って事以外全く興味がないんだよ。それを勝手に拗らせやがって。」


「‥‥‥。」


「アルトス兄さん。」


キリーエがアルトスの元に歩いて来た。


「全く昔からアルトス兄さんは人の話聞かん人やったな。でも今回はやりすぎや。歯、食いしばりぃ!」


キリーエが拳を振りかぶって、思いっきりアルトスの顔を打ち抜いた。


「ぐぼぉ!」


アルトスは空中で大回転して、その勢いのまま地面に落ち、そのままかなりの距離を転がり続けた。

そして木々にぶち当たり、その勢いを止めた。


「このアホンダラぁ!家族はええけど、他の人にまで迷惑かけんなや!」


い、いや、キリーエさん‥


た、多分お兄さん聞こえてませんよ‥


キリーエさん、色々とスキルを譲渡しているの忘れてませんか?


ほ、ほらピクピクしてますよ。


無言でアルトスの元に歩くキリーエ。

少し早歩きなのは気にするまい。


【ボックス】から高価そうなポーションを取り出して、アルトスの頭から振りかける。


アルトスの傷がみるみる癒えていく。


そんなに高いポーションを使うなんて、結構危なかったんじゃ‥


「今のはうちの仲間に迷惑かけた分や!国に迷惑かけた分はしっかりと罰を受けるんや!死刑にはせんでもらうように働きかける。ただそれは助けるわけやない。生きてしっかりと罪を償うためや!」


確かにその通りだ。

しっかりと生きて償ってもらおう。


しかし良い事を言っているんだが、キリーエの額に流れている冷や汗が気になる。


「他の人たちも報告の時に勇者正人が死刑にせずに、罪を償うように言っているというと良い。そうすればすぐに死刑って事にはならないと思うからな。」







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