第918話
商人たちは各々国に戻っていった。
それぞれに正人が書いた直筆の書状を持たせる事にした。
正人の名前にどれほどの力があるかわからないが、勇者正人と書いているだけで、どこも無視はしないだろう。
その書状が本物か偽物かもわからないからね。
アキーエが「マルコイの名前で出したらいいんじゃない?」とか意味のわからない事を言っていた。
そんな事をするわけがないだろう。
もし、うにゃタル教の人たちにバレたらどうするんだ。
来るよ。
絶対エルフの国まで来るよ、あの人たち。
今は遥か遠くの国で布教しているはずだ。
もしこれで俺の名前で書状でも作ったら、神託だの何だの言い出しかねない。
いや、言うに決まっている。
そしてあいつらはこっちに来るに決まっている。
そんな事は絶対に阻止せねばならない。
そのため、今のところは仲間と思われていない正人たちの名前を使ったのだ。
「もう意味ないに決まってるじゃない。目立った動きしてないだけで、獣人国や王国にもたくさんいるんだから‥フーラさんだけ気をつけてても無駄と思うわよ。」
絶対に阻止せねばならない‥
例えば無駄な努力だとしても、男には逃げる事が出来ない戦いがあるものだ。
「逃げる為の逃げる事が出来ない戦いね。」
お、男の聖戦なのだ‥
「よし、それじゃあエルフたちを追いかけるか。」
「いよいよね。バレないようにこっそり近寄るの?」
奇襲をかけるならその方がいいんだろうけど‥
どうせなら、エルフ国にもわかるように派手な攻撃をして他国との戦争準備を邪魔してやろうかな。
「いや、今回は派手に行こう。勇者たちのデビュー戦だし、エルフがこっちを気にして戦争仕掛ける事が出来ないようにしよう。エルフたちの後ろでコソコソしてるやつらも無視できないようにな。」
「いいの?」
おう‥
アキーエさんの目がキラキラしてる。
アレカンドロとリルの目がキラキラしてるのはいつもの事なんだが、アキーエさんが嬉しそうなのは珍しいな。
エルフの化け物発言にちょっと腹を立ててらっしゃいましたしね‥
「ああ。でもあくまで主で活躍してもらいたいのは各勇者たちだから、みんなは少し控え目にね。勇者たちは派手に暴れてくれていいから。」
「「任せてくれ!」」
「エルフの人たち怖くないといいけど‥」
ラケッツさん、弱気はやめようね。
もたもたしてたら、アキーエさんが魔法で殲滅してしまいますよ?
「それじゃあ行くぞ!」
俺たちは森の中を駆ける。
距離は離れていたが、俺たちが来るとは思っていないようで向こうの進みは遅く、何とかエルフが森を抜ける前に追いついた。
この森がどこまであるのかわからないけど、軍がエルフ国に着く前でよかった。
「アキーエ、派手なの頼むぞ。」
「わかったわ。」
「勇者たちは、アキーエの魔法を合図で別れてくれ。正人たちは4人で動いて、念の為にキリーエとミミウがついてくれ。ガッツォさんにはアキーエとアレカンドロとリル、ラケッツさんには俺がつく。」
「えっ!?」
なんだよ、ラケッツさん。
俺と一緒じゃ不服なのかい?
「大丈夫だラケッツさん。その装備なら敵陣の真ん中に入っても死なないと思うから。」
「そこは思うじゃなくて、死なないって言ってください!」
細かい奴だな‥
「多分死なない。」
「多分て!」
えーい、うるさい。
「アキーエやってくれ!」
「流されたっ!」
「わかったわ!」
「こっちも!」
ガックリと膝をつくラケッツさん。
膝の仕掛爆弾破裂しないかな‥
「原初の炎よ、この地を紅蓮に染め我が敵を滅せよ『炎陣操球』!」
アキーエの前に無数の炎の球が出現する。
一つ一つはアキーエが使っていた火球よりも小さいが、その数がとにかく多い。
その球は今もその数を増やしながら、最初に出現した火球をその場所から押し出していく。
押し出された火球は徐々にスピードを増して、エルフたちが進軍している場所に飛び込んで行った。
「ぐおっ!な、何事だ!?何の爆発だ!」
「て、敵襲!敵襲ですっ!」
「なっ!む、迎え撃て!」
エルフに向かっていく火球はどんどんとその数を増やし、数千という小さな火球がエルフ軍に襲来した。
おお‥
何その広範囲魔法‥
殺傷能力はさておき、そんな数の爆発魔法が飛んできたら防ぎようがないだろ。
ふっ、エルフも1番怒らせたらいけない人を怒らせたようだな‥
怖っ。
俺も気をつけよう。
しばらくすると、アキーエの爆発魔法が全て放たれた。
そして着弾地点の煙が晴れてくると、そこは木々が燃え土にいくつもの穴ができた場所となっており、そこに痛みに悶え苦しむエルフたちがいた。
「ぐっ‥」「つあぁ‥」
致命傷を負ったエルフいないようだな。
さすが魔法を得意とする種族だけあって、魔法耐性も高いようだ。
「い、いったいどういう事だ!襲撃者は何者だ!」
「むはははははっ!お前程度の実力で俺様を倒せたとでも思ったか!貴様らエルフが誰に剣を向けたのか教えてやる!」
やべ。
なんかテンション上がって来た‥
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