第913話

「『氷槍』!」


俺はエンチャント:穿つ者を発動して、エルフと護衛の男たちの間に氷の槍を放つ。


「ん?ほう。まだ下等種族が隠れていたか。大人しく隠れていればいいものを。」


エルフの男は俺とアキーエに向き直る。


「まったくお前らはゴブリンと一緒だな。1匹見つけたと思ったら10匹は出てくる。まったく掃除する側の身にもなるがいい。」


誰がゴブリンだ。


こんなにイケメンなゴブリンがいるはずないだろうが!


「ゴブリン‥‥」


アキーエさんや‥


何故俺の顔を見ながら目を細めてるのかな?


ちなみにあいつの言い方だと、俺だけじゃなくてアキーエさんもゴブリンって言われてますよ。


「はっ!誰がゴブリンよ!」


あ、途中で気づいたみたいですね。



「お、お前は!」


アルトスが俺に気づいたのか、俺たちを指さしながら震えている。


「よかったな。兄思いの妹がいて。お前がどう思おうと、キリーエはお前の事を心配してるんだよ。わざわざこうやって助けに来たんだ。後でキリーエに礼を言っとけよ。」


「キ、キリーエも来てるのか!?」


「当たり前だろう。キリーエがあんたを助けたいって言ったんだからな。」


「ぐ‥くぅ‥」


アルトスは苦虫を噛み潰したような顔でこちらを睨んでいる。


なんで睨むかな?


助けに来てくれてありがとうの一言くらい言っても良さそうなんですけど?


そんなに妹に助けられる事が屈辱なのかね?


コンプレックスを拗らせたやつだな‥


「ふむ。下等種族同士で何を話している?誰が助けに来ようが、お前達がここで死ぬ事は変わらんぞ?まあ誰か1人逃して王国に報告させるのも面白いとは思うが‥」


「残念だが誰1人殺させるわけにはいかないな。しかしあんたたちが引くなら俺たちも引こう。どうだ?今ならどちらも犠牲が出ていないから良い案だと思わないか?」


「はっはっは!お前達下等種族となぜ取引などせねばならぬ?我々は我々のやりたい事をやるだけだ。しかしお前は不快だな。我々エルフを敬っておらん。」


「何でお前らを敬わなければならないんだ?ただの引き篭もり集団だろ?」


大人しく家から出てこなければよかったのに。


だいたい敬うとか自分嫌いですから。


最近気が緩んでる時に身体が光ったりするんです。

あまり考えないようにしていますが、おそらく敬うが関係あるんだろうなって思いますから。


「下等種族のくせによく口が回るな。エルフを苛立たせる才能もあるようだ。しかし全てに意味がないのだ。力で全てを押し通すからな。『火の精霊よ、こやつらを焦がせ!』」


エルフの周りを漂っていた火のトカゲが、何故かこちらを見ながらオロオロしている。


「む?どうした火の精霊よ?焼き尽くせ!」


エルフの男が精霊に声をかける。

しかし火トカゲはオロオロしたまま、何もしようとしない。


「何だと言うのだ?まあいい。ならば『火の上位精霊よ、獄炎を顕現せよ!』」


エルフの後ろにいた炎で形取られた巨人がエルフとこっちを交互に見ている。


深いため息をついた炎の巨人が火を操り、こちらを攻撃してきた。


精霊もため息つくんだな‥


しかしどうしたんだ一体?


さっきまで護衛の男たちにぽんぽん火の攻撃をしていた精霊が攻撃を躊躇するなんて‥


まあいい。

とりあえず精霊の攻撃を防がないと‥


「原初の炎よ。我が身を護るためその姿を現せ『紅炎壁』!」



俺が氷の魔法を放つために魔力を練り始めた時、アキーエが俺の前に立ち魔法を放った。


アキーエの前に凄まじい勢いの炎の火柱が立ち昇り、火の精霊が放った火を飲み込む。



うっわ、怖っ!


何その魔法の威力!


エルフの人が自慢気に放ってた上位精霊の魔法が、火の粉程度に見えるんですけど‥


「な、な、なんだその魔法はっ!そんな馬鹿げた威力の魔法を何故人族如きが使えるのだ!」


う〜ん‥

なぜ?


多分アキーエさんだからですよ。


アキーエのスキル【魔闘士】は近接戦闘が出来る上に魔法も使えるという、規格外のスキルだった。


しかし最近魔法の威力が更に上がっているような気がする。


【魔闘士】ってスキルの魔法威力の上限は壊れてるんじゃないかと最近思い始めてきた。


【魔闘士】のスキルレベルが上がれば、魔法の威力も爆上がりだ。


その代わりアキーエさんは火魔法というか、爆殺魔法と言ったらいいのかわからないが、それしかほぼ使えない。


水魔法も使えるのだが、魔力を込めて水鉄砲くらいしか発現しない。


まあアキーエらしいと言えばそれまでだが‥


その代わり火関連の魔法であれば、エルフすら顎が外れるくらい驚く威力となっているようだ。


「お、お前は何者だ!?はっ!もしや幻覚の魔道具を使っているエルフではないのか?そうであれば納得がいく。何故人族と一緒にいるのかわからんが、それだけの威力の魔法を使えるのだ。今ならエルフの国に戻ってくることを許すぞ。」


「原初の炎よ、敵を穿つ弾となれ『火球!』」


アキーエの周りに特大の火球が3つほど浮いて、身体の周りを回っている。


「何を言ってるのか意味がわかんないけど、友達の家族を傷つけようとした人は許せないわよ。」


アキーエさん‥

激怒ですね。






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