第914話
「な、何を言っている!お前はエルフなのだろう?そうでなければ、先程の魔法に説明がつかん。」
「だから何を意味のわからない事を言ってるのよ。私は人族生まれ、人族育ちよ!」
アキーエが胸を張って答える。
真っ赤な髪が揺れて、綺麗な顔にかかる。
最近ますます可愛いと言うか、綺麗になったなぁ‥
少し前にラケッツさんが、「アキーエさんって綺麗になりましたよね!マルコイさん達まだ恋仲じゃないんですか?いい加減にしないと誰かに取られますよ?」なんて言うもんだから、思わずラケッツさんの力では伸ばす事ができないバネで作った『勇者育成強化マシーン』を作ってラケッツさんに装着させてまったよ。
「マルコイさん!人の身体はこっち向きには曲がりません!」とか意味のわからない事を言いながら、海老みたいに丸まってたのはいい思い出だ。
「ひ、人族だと?そ、そんな馬鹿な‥はっ!わかったぞ!さては魔法の威力を上げる使い捨ての魔道具を使ったのだろう!そんな伝説級の魔道具を使わなければ人族如きが我々エルフの魔法を防げるはずがない。それならば今浮かべているその魔法が切り札なのだろう。よかろう、我々エルフの力を見せてやる。上位精霊よ、我が身を護る盾を顕現せよ!」
エルフの前に障壁が現れる。
しかしお前は情緒不安定か。
アキーエにエルフって言い出したり、違うと言ったら魔道具だと言う始末。
余程アキーエの力を認めたくないようだな。
まあそれほどの威力じゃなかいが、使い捨ての魔道具ならたんまり『スペース』に入っていますけど。
引き篭もりエルフはこれだから困る。
引き篭もってもいいが、ちゃんと世界に目を向けないといけないんだぞ。
「伝説級の魔道具を使った最上級魔法とはいえ、エルフの障壁を破れると思うなよ。」
いや、アキーエさんが使ってるのは1番弱い『火球』
なんだが‥
俺がラケッツさんの魔道具を作った際に検証した、魔法を意図的に停滞させ、そして自身の意思で発射させる。
その検証結果をアキーエに伝えたら、そこから色々と自身で試し始めた。
今やってる火球を停滞させる方法だったり、炎槍に回転を加えて威力を上げたりなど色んな方法を考えているみたいだ。
あれ?
もしかして爆殺女神をますます手のつけられない状態にしてしまった気がする‥
ちょっかいかける時は命懸けになりそうだな‥
「『火球』!」
アキーエが魔力を操作して身体の周りに停滞していた火球の一つをエルフに向かって放つ。
火球はアキーエの身体を一周すると、物凄い勢いでエルフに飛来し、まるで何もなかったかのように障壁を貫通してその横を通り過ぎた。
「ひっ!」
エルフの顔が恐怖に歪む。
そりゃそうだ。
自信を持って張った障壁が、まるで紙みたいに破られたもんな。
アキーエの周りを回っていた残りの火球が勢いをつけて、エルフ足元に着弾する。
凄まじい爆発音が鳴り、砂と煙が舞い上がる。
煙が晴れた後には、膝を抱えて小さくなっているエルフがいた。
「い、生きてる?生きている!ふ、ふはっはっは!さては身に余る威力の魔法だったために、制御できなかったか!まあ俺の障壁が魔法の軌道を変えたのもあるだろうがな!せっかくの切り札が外れたのだ。今度はこっちから行くぞ!」
お前の障壁など、一瞬でも役に立っていないぞ‥
「あれ程の魔法を使ったのだ。いくら魔道具の力を借りたとはいえ、お前の魔力はもう空になっているはず。その状態で俺の魔法を防げ‥」
「原初の炎よ、敵を穿つ神槍となれ。『炎槍』!」
アキーエが魔力を練り、目の前に10本近い炎の槍を出現させる。
「どうするの?さっき言ったマルコイの案を受ける?受けない?受けないなら、この魔法が貴方たちに向かって飛ぶことになるわよ。」
炎の槍はその場で停滞したまま、回転し出した。
うわぁ‥
あれって俺のエンチャントでも防げないわ。
あんなもん、ミミウの土ゴーレムでも持ってこないとどうにもならんだろ。
俺の『スペース』に入ってるゴーレムでも‥
いや無理だな。
穴だらけになった上に丸焦げだな‥
「そ、そんな‥ま、魔道具がまだあったと言う事か!」
「さっきから変な事言ってるけど、そんなんじゃないわよ。魔道具なんて使ってないし、下級魔法だから何度でも使えるわよ。」
「そ、そんな馬鹿な事があるか!ひ、人族でそんな威力の魔法を使えるはずがない!さてはお前は魔族だな!それとも化け物‥」
あ、それいっちゃいけないですよ‥
「誰が化け物よ!」
炎の槍が一斉にエルフに向かって放たれる。
炎の槍は、エルフたちが立っていた地面を広範囲でふっとばした。
もちろんその地面に乗っていたエルフも同じようにみんなまとめて宙にふっ飛ばされる事になった。
かなり高く宙を舞ったエルフたちは、しばらくしてから地面に落ちた。
ほとんどのエルフは気を失っていたが、意識のある者も骨が砕けたりと死屍累々な状況となった。
や、やっぱりアキーエさんすごいですね‥
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