第911話

しばらく進んでいると先ほど報告に来た黒服の女性とは別の女性が森の外側で待っていた。


「マルコイ様。エルフの取引の様子ですが、この森を進んだところから確認をお願いいたします。少し距離はありますが、様子自体は問題なく確認できると思います。」


「わかった。ありがとう。」


「いえ。私どもも頭領であるマルコイ様のお役に立てて幸いです。」


頭領‥?

何の事だ?


しかしやはりホット商会の人たちなんだな‥


いつの間にこんな事が出来る人たちを雇ってたんだろ‥?


大きな商会なら当たり前の事なんだろうか?


「それでは‥」


そう言って、女性は口元にマフラーのような物を当てた後、その場から上に飛び上がり、木々の枝の上を飛ぶようにして去って行った。


えーっと‥


絶対普通の商会にあんな人いないよね‥?


商会の諜報員って皆んなあんな動きができるんですか?


「マルコイさん、『影』からの情報やと、うちの兄さんだけじゃなくて他の商人も集まってきてるみたいや。兄さんだけ日が早まったんやなくて、初めから今日やったみたいやね。」


ふむ。


「なるほど‥‥ところでキリーエさん。『影』って何でしょうか?」


「『影』?ホット商会の諜報員の事やけど?」


「い、いや、それは何となくわかるんですが、何故あんな格好をしている上、あれほど身体機能が高いんでしょうか‥?他の商会にもあんな人がいるんでしょうか?」


あんな人たちがたくさんいるなら、商会業界が最強のような気がするんだけど‥


冒険者ギルドが霞んでしまう‥


「ああ、『影』は特殊で、ホット商会にしかおらんよ。彼女らは異世界の『忍者』を見本にしてる人たちで、元々身体能力が高い人たちに特殊な訓練を積んでもらってるんよ。」


異世界の『忍者』‥


もしかして‥


「そ、それって何を参考にされたんでしょうか?」


「ん?ああ、リルちゃんがあやめちゃんたちに『侍』の事を聞いてたんやけど、その時に他にも参考にするような人たちはいないんか聞いたら、『忍者』って人たちがいるって聞いてな。ホット商会の諜報員として育成してみよう思たんよ。」


またあいつらか!


いらぬ事をリルに伝えただけじゃなく、今度はキリーエにまで被害を与えるとは‥


「もちろん、【隠密】とか【軽業士】なんかを持ってる人だけに選別しとるよ。冒険者ランクで言うとBランク以上になるんやないかな。あと道具のオリハルコンの鉤縄やミスリルの鎖帷子なんかも装備しとるからその辺の冒険者なんかより、よっぽど強いと思うわ。」


なんて事だ‥


うちのパーティが異世界かぶれしている‥


てかオリハルコンの鉤縄?ミスリルの鎖帷子?


装備品だけで言ったら、冒険者Sランク並じゃないか?


「まあ頭領はマルコイさんやし、手がいる時は呼んでくれたらええよ。今のとこ30人くらいやけど情報収集の時とかは役に立つと思うわ。」


「は?」


「ん?30人くらいおる‥」


「いや、そこじゃなくて何故俺が頭領とやらなんだ?」


「え?あ、大丈夫、会長は会長のままで、頭領は兼任してええんやから。」


ち、違うんだよキリーエさん‥


もうこれ以上俺に肩書きを増やさないでくれませんか?


というか、ホット商会およびキリーエさんはどちらに向かってらっしゃるのやら‥‥





「とりあえずもう少し近づくために移動しよう。」


商人たちと荷馬車が次々と集まってきた。


最後の馬車がついてから両サイドから人が歩み寄ってきた。


アルトスを含めた数人の男とエルフの男が会話を始めた。


エルフの男は他のエルフに比べ、豪華な衣装に身を包んでいる。


どうやら他のエルフよりも身分が上のようだ。


「ご希望の品を‥‥‥‥これで‥‥‥品質は‥‥」


少し距離があるため、聴力に集中しても声がはっきりとは聞き取れない。


だが問題なく交渉は始まったようだな。


とりあえず今のところは問題なく進んでいる。


商人側がこの量を集めるのがどれだけ大変だったか身振り手振りで説明しているようだ。


エルフ側は笑っている。


人を馬鹿にしたような笑みに見える。


あんな顔をしているのに、誰1人気付かないのか?



「人間よ、ご苦労であった。これだけの量であれば女王も満足していただけるはずだ。」


エルフの男がより大きな声でそう言った。


女王?

やはり国の代表者の意向なのか?


これで内乱などの可能性はなくなったと考えていいだろう。



「そんなお前たちには褒美ををあげようではないか。」


やっぱりか‥


「そこに隠れてる者たちも同じように権利をあげよう。」


気付かれた‥?


アフロがいない上にこれだけ距離が離れているんだぞ。


そう思っていると、俺たちとは反対にある場所から数十人の武装した集団が出てきた。


「すみませんね。これだけの荷物なので護衛をつけさせてもらっただけですよ。それよりも褒美とは?今回の取引報酬とは別にいただけるのですか?」


あ、向こう側の人たちの事か。


隠れていたつもりだったのか‥

この距離にいた俺たちも気づいたくらいだから、隠す気もなかったんだろうけど‥


しかし褒美か‥


悪い予感しかしないな‥






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