第886話
ラケッツさんが恐る恐る森の中を進む。
警戒しているのはモンスターなのか、それとも鎧の性能なのか‥
ラケッツさんの前方にある腰まで伸びている草が揺れる。
「グギャー!」
草をかけ分けて、ゴブリンが2匹出てきた。
「うおっ!」
ラケッツさんは驚きはしたが、すぐに冷静さを取り戻し持っていた剣でゴブリンを牽制する。
ゴブリンはその辺で拾ってきたような棒をラケッツさんに向けて、しきりに威嚇している。
1匹が痺れを切らしたのか、持っている棒を振りかぶってラケッツさんに飛びかかった。
ラケッツさんは剣を使いゴブリンの攻撃を防ぐと、その腹部に蹴りを放つ。
腹部に攻撃を受けたゴブリンはそのまま放物線を描いて地面に落下した。
もう1匹のゴブリンは宙を舞っている仲間を目で追っており、ラケッツさんから視線を外していた。
ラケッツさんはその隙を見逃さず、ゴブリンに近づき袈裟斬りで斬りつけた。
ゴブリンの胸元まで届いた剣を引き抜き、ラケッツさんは先程蹴り飛ばしたゴブリンの元に向かい、起き上がろうとしていたゴブリンの首を斬り落とした。
ラケッツさんはその場で剣を構えたまま辺りを警戒している。
ふむ‥
ちっ、剣渡さなきゃよかった!
ゴブリンと殴り合ってくれたらもう少しおもしろ‥‥ちゃんとした実験になってくれたと思うのに。
その幸運‥‥機会はすぐに訪れた。
ゴブリンが流した血に寄ってきたのか、別のゴブリンとオークが現れた。
それぞれ別の方向から現れたため、ラケッツさんはモンスターに挟まれるような形となる。
よしいいぞ!
ラケッツさんの判断早く、すぐにゴブリンに向かって駆け出した。
そしてゴブリンに剣を浴びせると、すぐにオークの方に向き直る。
「グ、グギ‥」
しかし急所を外したのか、一撃で絶命しなかったゴブリンが呻き声を上げる。
それに気を取られたラケッツさんにオークが上段から棍棒を振り下ろす。
辛うじて反応したラケッツさんは棍棒を剣で受け止める。
しかし攻撃してきたオークの後ろからもう1匹のオークが現れ、さらに攻撃してきた!
おお、ナイス!
これで‥
あ!そういえば今思ったんだけど、火力強化の事ばかり考えて、その衝撃を吸収する物を強化するのを忘れてたな‥
鎧の中に、ある程度の爆破の衝撃を吸収するように魔力回路をつけたし、それに転んだところで、すぐに起き上がれるようになったから大丈夫と思うけど、念のためにラケッツさんに伝えておくか。
「あ、ラケッツさ‥」
俺の声に反応したラケッツさんがこちらを向く。
へ?
今こっち向いたらオークの攻撃が‥‥
真っ赤な光が森の中を走る。
その後に強烈な破裂音と熱の波が襲ってきた。
結構距離をとっているにも関わらずここまで衝撃がくるとは‥
視線をすぐにラケッツさんに戻す。
あれ?
ラケッツさんがいない‥
ラケッツさんがいた場所には真っ黒い炭のような物が二つ並んでいる。
炭のような物の後ろには草木があったはずだが、道が開けたようにその場所だけ全て消え去っていた。
しばらくすると、道と草木の境界線辺りから赤いチロチロとした火が上がってきた。
おおう‥
ちょ、ちょっと威力が強過ぎたような‥
そ、そういえばラケッツさんは‥
「マルコイ神様。ラケッツさんならあちらに‥」
卓が指差す方を見ると、ラケッツさんがユラユラと亡者の様に立っていた。
元々いた場所からかなり離れているようだが‥
まさかあそこまで飛んだのか?
ん?
大量のモンスターの気配が近寄ってくるな‥
爆発音に驚いたのか?
森に潜んでいたモンスターたちが音のした方に寄ってきている。
あ、ラケッツさん、モンスターに見つかった‥
ラケッツさんは意識がないのか、まだその場でゆらゆらしている。
オークの攻撃がラケッツさんに届く。
今度はどうなるか、ちゃんと見てないと‥
オークの攻撃がラケッツさんに当たった瞬間にまたしても稲妻のような爆発が起きる。
「ぷぎゃーっ!」
あ、ラケッツさん飛んでる‥
なるほど‥
爆発の衝撃を推進力にして、宙を駆けるわけか‥
内部に伝わる衝撃は吸収されているんだろうけど、身体を動かす力は吸収されないからなぁ‥
あれはあれで戦いの最中に移動する手段としていいのだろうか‥?
回転しながら地面に落ちるラケッツさん。
するとすぐに鎧が小さな爆発を起こして、ラケッツさんの身体を強制的に立位に戻す。
「ひ、ひぃ!」
うん。
ごめんねラケッツさん‥
ここまで威力が上がっているとは思わなかったんだ‥
さっきの衝撃で意識を取り戻したラケッツさんは、モンスターから身を隠すために茂みに身体を屈める。
するとまたしても先ほどの小さな爆発音がして、茂みの中からラケッツさんが飛び出してきた。
「ぎゃー!」
そうか‥
身を隠す事もできないわけですね。
ま、まあ魔道具の勇者たるものが、隠れてはいけないという事で‥
ラケッツさんの泣き声を聞きながら、少しだけ鎧を修正しようか迷う事となった‥
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