第875話
そうだった。
うちの暴食が朝から街を徘徊しているのだった‥
しかし朝から来て食べ始めたとしてもこれだけの店が閉まってしまうのだろ‥
「また同じのをお願いするですぅ!」
閉まるなこりゃ。
俺は店の中をこっそりと覗き込む。
店の中は人がてんやわんやしており、その中にある一際大きなテーブルにミミウが座っていた。
店主が大急ぎで作っているのだろう、何人かの店員がさまざまな料理を運んできている。
しかしその料理はテーブルに置かれると同時に皿から姿を消していた。
う〜む‥
ミミウに料理を作っていた時は訳がわからなかった。
しかしこうやって作る側ではなく、離れて第三者として見たら‥
意味がわからん。
ミミウがスプーンを料理の乗っている皿に向けたのはわかる。
しかしその後すぐに皿の上の料理がなくなるのだ。
離れて見てわからないものは、考えてもわからんだろう。
多分ミミウだからって事で納得するしかない。
「同じのをお願いしますぅ!」
店員さんが引き攣った顔で注文を受けて、厨房に走る。
その後引き攣っていた顔を更に引き攣らせて、店員さんが戻ってきた。
「す、すみません。幾つかの料理の材料がなくなりました。作れる分だけでいいですか?」
そりゃそうだ。
全ての料理を何十人分も用意しているわけないよな。
「う〜、残念ですぅ。それじゃあ残った分をお願いするですぅ!」
その後ミミウは店が残った材料で作れる料理を全て平らげた。
「すみません、さっきので最後の料理になります‥」
「わかったですぅ!美味しかったですよ。また来るですぅ!」
そう言ってミミウは数枚の金貨をテーブルに乗せる。
「お、多過ぎます。すぐにお釣りをお持ちしますね。」
「お釣りはいらないですぅ!今度来た時はもっと美味しい物を食べさせてくれたら、それでいいですぅ!」
な、なんて男前な台詞だ。
でもその前に何故ミミウがそんなにお金を持っているのだ‥
「何不思議そうな顔してるの‥?あ、マルコイ知らないんだ?ミミウって多分キリーエの次にお金持ってるわよ。」
な、なんだと!?
なぜだ?
どうやって‥
「あっ!マルコイさんとアキーエさんですぅ!」
しまった。
びっくりしすぎて見つかってしまった。
「お、おう。アキーエと登城する前に何か食べていこうと思ってな。ミミウは‥朝から食べてるのか?」
「そうですぅ。朝ごはんをお店で食べてたら、いつの間にかお昼になったですぅ。それで、そのままお昼ご飯も食べてるですぅ!」
そ、それはずっと食べ続けてるって事ですよね‥?
「そ、そうか。この後も食べ続けるのかい?」
「う〜ん、ちょっとお金がなくなってきたから、お肉とお金を取りにいってくるですぅ!」
お肉とお金?
ミミウ用のお肉なら、俺の『スペース』に山ほど入っているが、お金は入っていない。
もちろん財布にも入っていない。
俺のお金も‥
「そう。あんまり遠くまで行っちゃだめよ。あと遅くならないようにね。」
「はーいですぅ!それじゃあ待ってるですよ〜、ドラゴンさんたち!」
ドラゴンさんたち‥?
ミミウはそう言った後にスキル【精霊重士】を使い、タイヤのような物をたくさんつけたゴーレムの下半身だけを出現させ、それに乗って去って行った。
「なあアキーエ‥ドラゴンさんってどういう事だ?」
先程のゴーレムも気になる。
俺が作ろうとしている自動四輪車を超えるものを簡単に作り出し、動力もよくわからないようなそれに乗って猛スピードで走って行った。
だが、それよりもドラゴンに会いに行った事が気になる。
「だからさっき言ったじゃない。ミミウはキリーエの次にお金持ってるって。今からミミウはドラゴンを討伐してその肉を自分用にして、それ以外の部位はギルドに売りに行くのよ。ドラゴンなんて全ての部位が売れるんだから。それこそ血抜きしたドラゴンの血でさえ高く売れるのよ。」
な、なんだと!
ミミウさんがそんな知的な事でお金を稼いでいるなんて!
「どうもドラゴンの肉が食べたくて、解体するためにギルドに持ち込んだらしいけど、肉以外をギルドが購入させてもらえないかってミミウに聞いたのが最初みたいよ?ミミウにとっては肉以外は全部捨てる物って思ってたみたいだから二つ返事で売ったみたいだけど。」
な、なるほど。
ギルドも少しでも売ってもらえたらラッキーみたいな感じで打診したんだろうな。
そしたら全部売ってもらえたもんだから、これ幸いと買い取ったんだろう。
それがミミウが金貨を大量に持っていた理由か‥
う、羨ましい‥
正直に言って羨まし過ぎる‥
はっ!
俺の『スペース』の中にも売れるような希少なモンスターの素材が入っているんじゃないのか?
俺は踵を返しギルドに急いで戻った。
そしてイザベラさんに「ミミウちゃんのドラゴン予算は準備しているが、それ以外に買取用の高額な金額は用意していない」と言う現実を突きつけらるのだった‥
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