第872話

割と快適な旅だったと思っていたが、やはり疲れは溜まっていたのだろう、ベッドに入るとすぐに眠気に襲われた。


目が覚めると、窓から朝日が差し込んでいた。


「う〜ん‥」


軽く身体を伸ばしてほぐす。


爽やかな朝だな。


こんな爽やかな朝を迎えた日に、結構キツめの人に会いに行かないといけないと思うと少し気が重いなぁ。


「マルコイ様。」


部屋がノックされ、外からベアトリスさんの声が聞こえる。


「ベアトリスさん、どうしました?」


「いえ、起きていらっしゃるならいいんです。昨日ギルドマスターに伝言をお伝えした際に、『朝来なかったら乗り込むわよ』と言われたもので。」


何で俺の周りには自分から乗り込んでこようとする人が多いのやら‥


朝からイザベラさんが家に来るのは避けたい。


仕方ない、用意をするか‥


「すぐ起きて来ますね。アキーエにも声をかけておいて下さい。」


「はい。アキーエ様はもう起きてらっしゃいますのでよろしくお願いします。」


おお、随分と早いな。

俺が遅いのかな。


用意をして食堂に向かう。


「マルコイおはよう。」


アキーエが食堂の席に座り、朝食を食べていた。


今日はパンに野菜と乾燥肉を戻したスープか。


う〜ん、ベーコンとかハムとか作ってもいいかもな。

あとは異世界人は卵を半熟で食べてたな。

異世界風朝ごはんってのも正人たちが喜ぶかも。


「他のみんなは?」


「みんなもう朝食終わってそれぞれ出かけたわよ。アレカンドロたちは外にいるけど。」


みんな早いな。

ミミウは早い時間から出かけるのは予想してたけど。

店が開く前から並んで待ってるんだろうな。


この街のお店は午前中でほとんどが完売になるだろう‥

腹ペコ大魔王の進軍だ。


「マルコイ。早く食べてギルドに行きましょう。そうしないとイザベラさんがこっちに来るわよ。」


アレカンドロとか喜びそうだけど、俺は心臓に悪い。

早く食べて出発しよう。



「それじゃあ行ってくる。ベアトリスさん、留守番頼んだよ。」


笑顔のベアトリスさんに見送られて、アキーエと外に出る。


そういえば今日の朝食はベアトリスさんに運んでもらったが、ドジっ子はなかったな。


やはり正人が何かしらの不運を引き寄せているんじゃないだろうか。

ベアトリスさん限定で。

いや、正人にとっては幸運なのかもしれないけど。




外に出ると、激しい剣戟の音がしていた。


おそらくアレカンドロと正人たちだろう。

昨日話をして今日から訓練を始めるとは、今回の正人の決意はかなり固いようだ。


音が聞こえてくる裏庭の方を覗いてみる。


おうおう。

激しくアレカンドロと、あやめが闘っている。



‥‥‥‥あやめ?


あれ、正人は‥


あ、ボコボコになってる。


正人は恵に回復してもらい立ち上がると、すぐにリルに向かっていった。


リ、リルさんですか‥

その人手加減下手くそですよ。


さすがに刀は使ってないが、木刀でも当たれば怪我をする。

それでもすぐに立ち上がり、相手に向かっていく。


今までにない真剣な表情だ。

その姿に正人の想いの重さを感じた。


あいつ本気で魔王を倒してこの世界を護ろうと‥


「ベアトリスちゃんのため、ご褒美のためにー!」


あ、ごめん間違えてたわ。


リルに叩きのめされて倒れる正人。


するとすぐに恵が近寄り回復魔法をかける。


正人の傷がみるみる回復する。


「正人君。幾ら怪我しても私が回復するから大丈夫だからね。頑張って訓練して一緒に強くなりましょう。」


おおう。

この間床でビタンビタンしていた恵とは思えないな。

やっぱりこっちが本当の恵なんだな。


「何だったらもう少し思いっきりやられてもいいですよ。スキルは使えばレベルが上がるから、もっと魔法を使ってスキルレベルを上げればマルコイさんのお役にも立てるはずですから。」


そうか。

そこまで考えて‥


「そして私なしでは生きられない身体に‥ぐふふふふ‥そうなったら、あんな事やこんな事まで‥うひひひひ‥」


‥‥‥‥‥ぶひ。




「おお!いいですぞ、あやめ殿!その調子ですぞ!」


あやめの猛攻をいなしながらアレカンドロが声をかける。


「恵を!あんな風にした!マルコイを!絶対に倒すんだからぁ!」



‥なんだこの闇が蔓延している場所は‥



よし‥


見なかったことにしよう。



「いいのマルコイ、声かけなくて?」


「いいんだアキーエ。黙って見守る事も時には大事なんだ。」


「でもそれで解決した事今までないんじゃない?」


ぐはっ!



ア、アキーエさん。

と、時には逃げることも必要なんです。


俺は正人たちを振り返らず、ギルドに歩みを進めるのだった‥




じ、時間が解決してくれないかな‥




ギルドに到着し、扉を開ける。


中を見渡すと、見覚えのある人と目があった。


「あら〜ん、マルコイちゃん!もう、遅かったじゃない!」


う〜む‥

魔肉化したヨエクよりもプレッシャーを感じるのは気のせいだろうか‥







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