第849話
「冗談や、冗談。」
いや、そんな恐ろしい事本気で勘弁してください。
「タルタル教が布教してるさかい需要は高い‥そやけどマルコイさんしか作れないのであれば供給は‥いや単価自体を‥‥‥」
いや、冗談ですよね‥?
計算しないでくれませんか!?
本気で怖いんですけど!
「はは。ほんまに冗談よ。でもそのうち1つでも造ったら国宝とかになりそうやけどね。」
「そんな俺の『口噛み酒』なんて、どの国で国宝になるんだってんだよ!冗談が過ぎるぞキリーエ。」
「マルコイさん。冗談なんは『口噛み酒』を造ってと言った事であって、国宝になるんは間違いないわ。新タルタル神聖国か、ロンギルのタルタル神殿に持っていったら間違いないと思うよ。」
「やめろって。そんな冗談ばっかり‥‥」
いや、顔が真剣だ。
マジか‥
本当にそんな事になっちゃうのね‥
色んな情報を知ってるキリーエがそんな顔をするなんて‥
やはり‥
正人たち勇者の敵は魔王だが、俺の最後の敵は人々の祈りから創られたタルタル神なんじゃないのか?
何か女神が物言いたいのかタルタル神殿がうっすら光ってる気がするけど、近寄らないでおこう‥
「そしたらプリカ酒はこの街にホット商会の酒造を建てて、今回の戦いのせいで仕事を失った人を中心に雇っていく事にするさかい。」
「そうだな。そうしてくれると助かる。今回の戦いは街中だったしな。戦いのせいで失業して生活できなくなるなんてのは申し訳ないからな。」
「任しといてや。でっかい酒造を建てて、仕事失った人全員雇ったるわ!」
「ああ、頼んだぞ。」
「街の復興にも役に立てて、特産品を作る事で街の経済も救うなんて、ホット商会が益々大きくなるわ。」
確かにそうだ。
これだけ大きくなるともう世界一と言ってもいいんじゃないだろうか‥?
あとは‥
「ん〜、後はアルラント王国に事業を構えるメルヴィナ商会くらいやないやろか?西のホット商会、東のメルヴィナ商会って世間では言われとるらしいからね。」
お、おう。
どこまでも考えを読まれているんだけど‥
「そやけど、マルコイさんの名前もこれでまた広まるんやない?」
「俺の名前が?」
ホット商会が大きくなる事と俺の名前が広がるのは関係ないはずだが‥
飾りの会長はやってるけど、主に商会を動かしてるのはキリーエだし商会長の名前もあまり出してなかったみたいだったけど‥
「そや。獣人国だけで商会やってた時は、獣王様が便宜を図ってくれてたから必要なかったけど、他の国に行くと会長の名前とか記名せんといかんからね。そやから獣人国以外ではホット商会会長のマルコイさんの名前はものすごく有名やで。」
「な、な‥」
なんてこったい。
お飾り会長の名前までもが独り歩きしてるじゃないか‥
独り歩きするのはタルタル教だけで充分なんだけど‥
「そやから新しい国でホット商会に動きがあると、タルタル教もすぐ動くんと違う?この国の復興のためにホット商会で動き始めたら、すぐタルタル教の神殿の話が来たらしいわ。」
な、なんだと‥
てっきりイェルンさんあたりがタルタル教を呼び込んだと思っていたが、そんなカラクリがあったとは‥
ホット商会で街の復興をしようとした事に気づいて、すぐにタルタル教がやってきた。
そして王様とイェルンさんが洗脳されたと言う事か‥
しかもタチが悪い事に、この洗脳は光属性では解除できないところにあるからな‥
「そやけど、西方にある国にはほとんどホット商会が進出してるさかい、タルタル教の神殿も各国にあるんと違う?タルタル教に関しては女神教と勢力を二分しとるからね。」
ばかな!
たかが調味料が世界を創造した神と並ぶとは!
‥‥人の信仰心ってすごいのね‥‥
「まあここは諦めて東の国に行った時にバレないようにしたらええんと違う?」
「そ、そうだな。‥‥‥でも東の国に行ってもホット商会が動くだろ?」
「そ、それは臨機応変っちゅうやつやな。」
あ、ダメだ。
絶対この人お店作るに決まってる。
「会長をキリーエにするとか‥」
「そらあかん。ホット商会の会長はマルコイさんや。それだけは譲れへん。」
「あ、そうですか‥」
こ、これってタルタル教から逃げるのって無理なんじゃないかなぁ‥
ちょっと気持ちが落ち込んでしまったが、解決策が見当たらない事を考えていてもしょうがない。
気持ちを切り替えなければ。
街の復興。
大いに結構。
タルタル大神殿。
できればやめて欲しい。
あと残りは‥
ミミウの事なんだよなぁ‥
これってどうするべきなんだろ。
王様に教えるべきなのかなぁ‥
ミミウに確認してからに決まってるんだけど、実はミミウはこの国の姫様らしいぞ!なんてどのタイミングで言えばいいのやら‥
悩みながら今泊まっている宿に戻ると無邪気に模擬戦している2人がいた。
はぁ‥
多分解決しないだろうけど、2人に相談してみるか‥
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