第837話

ヨエクの身体はその巨大に膨れ上がった筋肉で、まるでボールのように転がっていった。


その身体は建物にぶつかり、めり込むような形で動きを止める。


「ぐ、ぐガぁ!き、きサマら!ユるさン!ゆルサんぞ!」


ヨエクが瓦礫から這い出してきた時に、俺の前に人が飛び出した。


「ヨエクよ!」


ゼルギウス王だった。


「王様、まだ危険です。前に出ないでください。」


鉄人形も王様の横に並び立っているが、危険なことには変わりない。


鉄人形で防げない攻撃を持っているかもしれないしな。


「すまない、マルコイ。ヨエクともう一度だけ話がしたいのだ。」


ここまで裏切られて、命まで狙われて‥

それでも話がしたいか‥


普通だったら馬鹿かと殴り倒したい所だけど、ヨエクと話がしたいって理由で危険な場所まで来てるんだ、同行を許した俺がその間は護らないとな。


「ヨエクよ!私がわかるか!」


ヨエクは声がした方を向く。

そしておぞましい笑みを見せる。


「ワカるに決マっテるではナイか、ゼルギウスよ。お前ノコとを首を長クして待ッていたノだ。少シ待っテいるのダ。こやツらを倒シた後に貴様にハやっテもらウ事がアる。」


首は比喩ではなく、実際伸びてるけどな。


しかしもう話が通じる状態ではないな‥


これ以上話をしても無駄だと思うが‥


「ヨエクよ。貴公に何があったのだ?貴公にあった国を護りたいという気持ちはどこに行ったのだ?貴公のやっている事は国民を苦しめているだけだぞ。」


「ハはっ!笑わセるナ!国民が苦シむ?そレがどうシた、強イ国ヲ作るタめに必要な事ダろう!国を護ル?そウでハない!ワガ国は他国ヲ滅ボせる程ノ強イ力を持ツのだ!国ヲ滅ぼセる程の力ヲ持ってコそ、自国を護ル事がデきるノだ!」


「そうではない!確かに自国を護る力は必要だ!だがそのために国民が疲弊してしまっては意味がないのだ!自国を護ると言う事は、国民を護ると言う事なのだぞ!」


「ふざケルな!必要ナものハ圧倒的な力ダ!自分ノ護るベキものモ護れナい力なド必要なイのだ!全テを無に返スようナ破壊ノ力を求めルべきナのだ!」


「違う!そうではないのだ‥‥なぜそうなってしまったのだヨエクよ‥そんな力を手にしても娘は‥ルピナミは喜びはしないのだぞ!」


「‥‥‥‥‥はッ!王女ノ件はキッかけにスぎん。そンな事のタめに力ヲ求めタ訳でハない。我ガ国に‥我に歯向かウ者を消シ去る為ダ!きサまラのよウな奴ラをな!」


話は終わったと言わんばかりにヨエクが腕を振り下ろしてきた。


王様の声も届かないか。

王様の娘、ルピナミ王女がきっかけだったとしても、狂ってしまったヨエクは王様の話を聞き入れる事はないようだ。


鉄人形鉄塊君がヨエクの攻撃を防ぐが、威力が高く王様共々吹き飛ばされる。


俺は飛ばされた王様の後ろに回り、王様の身体を受け止める。


「王様‥おそらくヨエクには言葉はもう届きません。どうなさいますか?」


「‥‥‥すまないマルコイ。頼む‥ヨエクを楽にしてやってくれ‥」


「わかりました。王様は鉄人形と一緒に後方にお下がりください。」


「ああ‥ありがとう‥」


王様は鉄人形と一緒に戦闘区域から離れる。


ヨエクは俺たちを倒しから王様を捉えるつもりなのだろう、その姿を見送っている。


「さて‥みんな倒すぞ!」


アキーエたちが頷く。




俺たちはヨエクに向かい走り出す。


「ぐはハはは!きサま達ヲ倒シて、俺ハ世界に恐怖ヲ持っテ平和を作リだス!」


ヨエクは勢いよく自分の身体に腕を巻き付ける。


そして身体を捻りながら、その腕を俺たちに向かって放つ。


円を書くようにヨエクの腕が迫ってくる。


腕の触手は今までのように伸びるだけではなく、腕が地面に触れた衝撃のたびに、その触手を周りに向かって撃ち出している。


だが‥


片方の腕が突然壁にぶつかり動きを止める。


ミミウの大楯だ。


腕は勢いをつけて動いていたが、ミミウの盾に阻まれた事でその力の零ベクトルとなった。


「なッ!」


そしてもう片方の腕にはリルが触手を斬り落とした後にアキーエが拳を放つ。


アキーエの拳とぶつかったヨエクの腕は簡単に弾き返された。








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