第820話
何かの実験で魔族の身体の一部を取り込んだ。
それだとダリックの変わりようだったり、リルが言う腐った臭いだの再生する肉塊だのが何故か全てしっくりくるんですけど。
まてまて。
あくまでも仮定の話だが、もしそれが正解なら‥
ヨエクのやつ、銃の開発だけじゃなくて魔族使った人体実験までやってやがるのか‥?
ダリックの場合は人格まで変わってたけど、ギルドを襲ったやつは気付いてすらいなかった。
効果が違うってことは回数重ねてその答えを導き出したって事だよな?
どれだけの回数実験したんだよ。
正直鳥肌が立った。
世界の王になるためにはここまで狂わないといけないのか‥?
神聖国の前聖王も大概だと思ったが、ヨエクはそれを遥かに超えるな。
しかしヨエク1人でここまで出来るのか?
王様が言っていた、「この魔力回路は勇者が用意した物だ。」と言う言葉。
この実験のために必要な魔族の身体。
どうやら敵はヨエクだけじゃなさそうだな。
「リルどうする?俺は魔力が心許ないが、倒せないことはないかもしれないけど‥‥ん?ちょっと待て‥」
魔族を取り込んだんだよな‥?
だとしたら光属性の攻撃が通じるのか?
「なあリル。あいつって魔族になるのか?光属性って効くのかな?」
「‥ん‥‥きくかもしれない‥くさい‥」
臭いかぁ‥
ドリルアームを普通の腕に替えたらゴーレムでも戦えるかもしれないけど、今は魔力節約だな。
俺はゴーレムから降りて剣を構える。
「さて、ちょっと試してみましょうかね。」
俺はダリックに向かって駆け出す。
自動迎撃なのか、触手が反応してすぐに襲いかかってきた。
ふっ。
舐めるなよ!
俺もリル程ではないが、剣も扱えるのだぞ!
迫ってきた触手を斬り裂く。
斬り損ねた触手から攻撃を受ける。
ぬおっ!
な、生身でこれを受けるつもりはないぞ!
急いで退がろうとすると残った触手を刀が斬り落とした。
「‥マルコイをまもるのは、せっしゃのつと‥‥くさい‥」
ありがとうリル。
そんなに臭いなら、喋らなきゃいいのに。
どうしてもそのセリフを言いたかったのね‥
触手が斬り落とされ、ダリックまでの視界が開けたところでエンチャント:勇敢なる者を発動する。
ダマスカス剣に光属性をのせて肉塊に攻撃を放つ。
もうかなり変形してしまい、ダリックの身体から巨大な肉の塊に変わりつつある物を斜めに斬り裂く。
斬り口から血が僅かに流れ出る。
傷を修復しようとして肉塊が蠢くが、溶けるような音と匂いがしてそれを阻害しようとしている。
溶けた肉は再生せずに、身体から溶け落ちる。
しかしその下から新たな肉が傷を塞ごうと蠢き出した。
これは‥?
「リル!一旦退がるぞ!」
横を見るとリルはすでにそこに居らず、後ろの方で鼻を摘んでいた。
おい、俺を護るのが役目じゃなかったのか‥
傷を回復しようとしているのか、ダリックはその場から動く気配がない。
「おいリル。あれは同族じゃないのか?」
俺はリルの元まで駆け寄る。
「‥‥ん‥においがするだけ‥まざってるにおい‥」
魔族だけならさっきの攻撃で死ぬはずだけど、魔族の一部とダリックの身体から混じってるからか?
魔族の傷を回復する能力だけ得て、光属性の弱点が無くなっているのか?
だが光属性の攻撃が通常よりもダメージを与えてるのは確かだな。
肉体を回復する能力だけを取り出そうとでもしているのだろうか‥
こんな物完成したら、弱点のない化け物になってしまうぞ。
「とりあえずアイツを倒すぞ。リル、これを使ってくれ。」
俺は光属性を持つ剣を渡す。
「『スペース』に入れっぱなしにしててよかった。それでアイツを斬ってくれ。通常の剣よりも効くはずだから。あとは俺が魔法で焼き尽くす。アキーエほどの魔法は使えないけど、光属性の剣があればなんとかなるだろ。」
「‥‥え〜‥‥」
「そこまで嫌そうな顔するなよ‥」
聞きたいことはたくさんあるが、聞けそうにないからな。
後からヨエクに聞くとするかね。
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