第809話
「あんたヨエク王の側近じゃなかったのか?それなのに何故前線に出てきてるんだ?」
魔力回復の時間稼ぎと情報収集しときましょうかね。
「‥‥俺を‥知っているのか‥?」
「ああ。確かヨエク王の右腕とか言われてた優秀な人じゃなかったのか?以前見た時と随分様子が変わってるみたいだが。」
「‥‥‥ふふ‥今も変わらん‥俺はヨエク王の側近だ‥お前を捕まえるのもヨエク王のためだ‥‥」
「その割にはだいぶ苦労させられてるみたいだな。以前はそんなに痩せ細ってなかったし、腕も両腕あったみたいだけどな。」
「‥‥この腕はヨエク王に捧げたのだ‥それに俺は罪を犯した‥‥この姿はその代償だ‥」
「へえ。そうなんだな。しかし以前あんたと会った時はそんな感じではなかった気がするぞ。どちらかと言うと傲慢で強欲で‥ヨエクに頭殴られておかしくなったか?」
「‥‥貴様‥‥‥ヨエク王を侮辱する事は許さんぞ‥‥死なない程度に痛めつけてやろう‥」
なんだこいつは?
違和感ありまくりじゃないか。
鉱山の入り口で見かけた時は、あきらかに自分の欲の事しか考えていないようなやつだったはずだ。
いきなり従順な犬みたいになったとか、魔族お得意の洗脳なのかと思ったけど‥
どうも違う気がするな。
まあ洗脳している魔族が行く所に俺たちが毎回来て邪魔している可能性もあるけどね。
でも洗脳というよりもダリックが従っているのが恐怖というか、畏敬のように感じられる。
「どうしても俺をヨエクの元に連れて行きたいようだな。できれば遠慮したいところだけど?」
「‥‥‥もういい‥俺はギルドに行ってルパートも締め上げねばならん‥お前と無意味な会話をする必要はない‥‥」
俺には意味があったんだけどな。
さてと‥
もう時間も稼げないみたいだ。
魔力量は総量の2割程度か‥
男のロマンのせいで結構ピンチかも。
ダリックがいなかったら問題なかったんだけど、こいつは簡単にいきそうにないからな。
「‥‥頭は撃つな‥身体なら多少当たっても問題ない‥‥最悪死んだとしてもヨエク王なら情報を得る事ができるだろう‥」
話が違うじゃないか。
命は取らないって言ったくせに!
まあそう簡単にやられるつもりもないけどな。
ヨエク兵が俺の周りを囲む。
後は空いているけど、前と両斜め前で銃を構えている。
同士討ちしないようにしているようだけど、この程度で俺をやれると思うなよ。
「‥‥今なら動かない程度に痛めつけるだけで済ましてやるぞ‥‥」
「遠慮しとくよ。『スペース』。」
「‥‥ふん‥ならば死ね‥」
ダリックの掛け声で銃を持つ兵が一斉に銃を撃つ。
辺りに銃声が鳴り響く。
「‥‥やめろ‥」
なんだもうやめるのか?
「‥‥なんだそれは?‥‥どこから出した?」
俺の目の前には巨大な鉄の盾を持つ3体の木偶人形が並んでいる。
「あ?教えるわけないだろ。それにこれだけじゃないしな。そう簡単に俺を倒せると思うなよ。」
俺は更に数体の木偶人形を『スペース』から出す。
家や秘密基地を護る目的で戦闘用の木偶人形も作っていたが、こんな所で役に立つとは思わなかった。
さて木偶人形で倒せるならいいけど、もし無理そうなら時間稼ぎかな。
「くっ!なんだこれは?ダリック様、お下がりください。敵は木造ゴーレムのようだ!銃から近接武器に切り替えろ!」
お?
さっきのヨエク兵とは違い、銃以外の装備を持ってきているやつがちらほらいるみたいだな。
だが君たちに木偶人形を倒せるかな?
単純にBランク下位くらいの力を持ってますよ。
「くそっ!強い!1人で当たるな!幸い数は少ない、数人で1体を囲むんだ!」
「ふはははは!誰がこれだけと言ったかね!」
俺は『スペース』から通常型や威嚇型、抱きつき爆弾型など使えそうな奴を100体ほど出す。
「はーっはっは!これなら囲むことも出来まい!さあどうする?この木偶人形パーティーを抜け出せるかな?」
あれ?
俺って悪役っぽくない?
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