第800話

わたしは振り下ろされたバクスターさんの剣を、魔力の籠った拳で弾き返す。


剣にぶつかった衝撃で魔力が爆発し、バクスターさんの剣が大きく弾かれる。


避けたところを追撃するつもりだったバクスターさんは予想が外れ、驚いた表情で後ろに下がる。


「はっ、やるな!まさか俺の剣を弾くとは思わなかったぞ!やはり本物の『爆殺女神』なのか?しかし何度も弾き返せると思うなよ。俺の剣の刀身はミスリル合金で出来ている。今回は偶然にも弾く事ができたかもしれないが、次はそうはいかんぞ!」


バクスターさんがまた同じ構えをとる。


「その剣でですか‥?」


刀身のなくなった剣を上段に構えてバクスターさんが何か言っている‥


「なんだとぉっ!え?ちょっ、へ?何でないの?」


バクスターさんが上段に構えている剣は刀身部分がなくなっており、剣の根本が炭化していた。


それを見て慌てふためいてるバクスターさんを尻目に、わたしはバクスターさんに近寄りもう一本の剣の刀身に触れる。


気力と魔力を融合した魔気を、バクスターさん自慢の剣に放つ。


するとバクスターさんの剣は一瞬で飴細工の様に曲がり、ポトリと音を立てて地面に落ちた。


「へ?」


思ったより脆かった。

バクスターさんくらいの人が使っている剣だから本当にミスリル合金とやらで出来ていると思ったけど、相手を威嚇するための虚言だったわけね。


「随分と脆いですね?ちゃんとした素材のものを使った方がいいと思いますよ。」


バクスターさんは落ちた刀身を呆然と見ている。


でも他の武器を持ってるかもしれないから、油断はできないわね。


まだ他にスキルを隠し持ってるかもしれないから、早めにケリをつけた方がよさそうね。


魔気を拳に溜める。


拳が薄く光る。


「な、な、な、な、なん、なんだそれはっ!」


バクスターさんは後ろに後退して距離をとる。


もしかしてバクスターさんは遠距離からの攻撃ができるのかしら‥


わたしはバクスターに向かって走り、距離を縮める。


「ひっ!」


バクスターさんが更に後ろに退がろうとするが、フェナさんの結界に阻まれ大きな隙が生まれる。


先程までもずいぶんと隙があったが、おそらく罠だったはず。


あまりにも隙が大き過ぎて不自然だった。


わたしは魔気を込めた拳を腰ダメに構え、そのままバクスターさんの元に向かう。


バクスターさんの腹部に向けて拳を振り抜く。


「うひっ!」


バクスターはその場でしゃがむように攻撃を躱す。


わたしの拳はバクスターの後ろにある結界に直撃する。


「なっ!!」


フェナさんの驚いた声が聞こえるのと同時に、わたしの拳はさほど抵抗も感じずに結界をぶち抜いた‥


結界にわたしが拳を振るった場所に大きな穴が空いた。


そして穴から無数の亀裂が走ったと思ったら、甲高い音を立てて結界が消滅する。


「そ、そんな!?強度を上げていた結界壁が破られるなんてっ!」


ご、ごめんなさい。

まさかこんなに簡単に割れるなんて思ってなかったから‥

バクスターさんが避けたから‥


「フ、フェナどうにかならんのか?こ、このままでは他にも被害が及びそうだ。」


「すみません、アザウア伯爵。先程の結界でほとんど使ってしまいました‥それに‥」


フェナの目がアキーエを捉える。


「多分どれほど私が魔力を込めた結界壁を作ったとしても、あの娘には意味がないと思います。」




バクスターさん侮れないわね。


スピードはそんな速くなかったけど、立ち回りが上手い。


それなら‥


避けれないように広範囲で攻撃すればいい!


右足に気を集めて、そこに魔力を集める。




【魔闘士】を発現してからも魔法を使う時は手に魔力を込めて放っていた。


でも格闘する時には手だけではなく、脚で攻撃する事もある。


だったら、脚に魔力と気を集めたらどうなるかと思い試してみた事がある。


わたしは左脚に力を込めて跳躍する。


バクスターさんはわたしに背中を向けて身体を低くして間合いを取ろうとしている。


多分罠だ。


でも関係ない。


罠ごとぶっ飛ばせばいいんだからっ!






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