第799話
アキーエは伯爵たちと共に家の裏にまわる。
表からはこじんまりとした家だったが、裏庭は割と広めのスペースがあった。
「ここならよかろう。フェナ頼んだぞ。」
「はい。承知いたしました。」
アザウア伯爵が1人の小柄な女性を呼ぶ。
母と同じくらいだろうか?
金髪を肩で揃えていて、優しい顔立ちをしている。
「それでは結界を張ります。『六柱結界壁』!」
フェナさんがスキルを使うと、薄い青みがかった壁が背後に現れた。
それはバクスターさんの背後や斜め前にも現れて、それぞれが他の壁と接して六角形を描いた。
アザウア伯爵の広めの庭をすっぽりと包んでおり、家のすぐ前にいる伯爵たちは、壁の外側に位置取っている。
「範囲を狭くして、障壁の強度をかなり上げております。強い魔法を使われても問題ないので、遠慮なく闘ってください。」
へぇ‥
凄いわね。
フェナさんはかなり疲れた表情をしているから、魔力をたくさん使うんだろうけど、凄いスキルだわ。
マルコイが模倣したら便利そうよね‥
今度教えてあげようかしら‥
でも教えたらマルコイの事だから飛んでくるわよね。
フェナさん少し歳上だから大丈夫とは思うけど‥
マルコイにたらしの自覚がないから困るのよね‥
まあ女性にモテるのは悪い事じゃないし、カッコいいマルコイ見るのも好きなんだけど‥
「アキーエちゃん、顔が赤いけど大丈夫なん?」
「だ、だ、大丈夫よ!こ、この結界が凄いなと思って興奮してたの!」
「ならええけど‥」
危ない危ない。
ちょっと遠いところに行ってたわ。
でも実際フェナさんの結界は凄いわ。
ちょっと触ってみたけど、ガラスのような感じがするけどとても硬いのがわかる。
少し力を入れて押してみる。
「ひっ!」
押した部分に無数の小さなヒビが入った。
バ、バレてないわよね‥
周りを見るが誰もわたしの手元は見てないようだ。
「アキーエちゃん。その結界はかなり強化してるから、ドラゴンのブレスも数秒は防ぐらしいんよ。そやから‥」
キリーエがわたしがヒビを入れたところを見ている。
ド、ドラゴンのブレスを防ぐ事ができるなんて、もの凄い強度だわ!
こ、このヒビはたぶんわたしが押した部分だけが薄かったんじゃないかしら?
「あんまり本気だしたらあかんよ‥」
「はい‥‥」
おかしいわね‥
何でドラゴンのブレスを防ぐような障壁にヒビが入ったのかしら?
「お嬢ちゃん、準備はいいか?」
バクスターさんが両手に剣を構えて声をかけてきた。
バクスターさんは【双剣士】かしら?
「もし本物の『爆殺女神』ならいい勝負になるだろうが、もし偽者だったら‥‥」
バクスターさんは双剣を擦り合わせて、甲高い音を立てる。
「歩いて帰れるとは思わない事だ。」
‥‥‥‥‥う〜ん‥‥
わかってる。
自分が仕えてる人が危険に身を投じるかもしれない。
だからそうならないように確かめようとしているのはわかる。
だけどモヤっとする。
確かにわたしが偽者だったら大変なのはわかる。
だけど王様を救うために、もう少し協力的でもいいんじゃないかしら?
わたしはガントレットをはめて返事をする。
「準備はいいですよ。でもわたしも少しモヤっとしてますからね。手加減できないかもしれませんよ。」
「はっ!面白いお嬢ちゃんだ!もし本物の『爆殺女神』だったら、その二つ名が正しいのか確認してやるよ!」
バクスターさんは一本の剣を上段に構え、もう片方を胸元に構えてわたしに向かい駆け出してきた。
「はあっ!」
バクスターさんが身体を沈ませて速度を上げる。
自身の剣の間合いに入ったのか、バクスターさんは身体を起き上がらせ、上段から剣を振り下ろす。
おそらく上段の剣を躱そうとしたら胸元に構えている剣で追撃するのだろう。
多分バラックスさんよりも速いのかもしれない。
でもマルコイやリルの動きを見てきたわたしからするとちょっと遅いんですけど‥
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