第782話

俺たちは教会を出て、冒険者ギルドに向かう。


王様やイェルンさんがいるので、どうしても速度は遅くなる。


決してアキーエのツッコミを腿に受けたせいで、俺の速度が遅くなっているわけではない‥


2人がいなかったら、俺のせいで遅くなるのは否めないが。


しかしアキーエのキックは何故こんなに痛いのだろう?


エンチャント:慈愛ある者を使っても、芯の痛みが取れないと言うか‥


多分ただの蹴りのダメージではなく、愛の痛みが残っているんだろうな‥

それはアキーエから届けられた愛だから、甘んじて受け止めなければ‥


「マルコイ。なに思考に耽ってるのよ。冒険者ギルドが見えてきたけど、このまま突っ込むの?」


おおう!

足の痛みの事を考えていたら、いつの間にかギルドの近くまで来ていたらしい。


「ヨエクの兵はもう来てそうか?」


【察知】では人が多すぎて判断がつかない。


「みてくる‥?」


「すまないリル。揃いの鎧を着ている奴がいるか確認してくれ。1人2人ならいいが、多数いるならすぐに教えてくれ。」


「わかった‥ひとりふたりだったら‥きっていい‥?」


えっと‥

お前には斬る以外の選択肢はないのか‥?

まあヨエクの兵士だから多少は大目にみるか‥


「そうだな。死なない程度にやっていいぞ。ただ人数が多かったら戻ってくるんだぞ。」


相手が大人数で全員が銃を持っていたら、さすがにリルでも手傷を負いかねないからな。


「なるほど‥たくさんきると、アレカンドロからふまんでる‥さすがマルコイ‥」


いや、そんな意味で言ったんじゃないんですけどね!


「相手はおそらく銃を持っているから気をつけるんだぞ!」


「キリーエのじゃなければもんだいない‥キリーエのはむり‥」


そうだよなぁ‥

自分で作っときながら何だが、あれは反則だよなぁ‥


音がない上に、ヨエク兵が持っている銃の数倍の弾速になってますから。


俺でも頭パーンッなりますわ。

いや、エンチャント:守護する者を使えば銃弾を防げるはず‥


まあ2発目で頭パーンッですけどね。


「いってくる‥」


リルは滑るように駆け出す。


おお‥

速い速い。


リルの全速力には俺も追いつけそうにないな。





リルを見送った後、少しスピードを落として周りの様子を窺う。


俺の【察知】にはまだ冒険者ギルドの中に多数の人の反応がある。


これがヨエク兵ならギルドが制圧されたって事になるがだろうが‥


ゆっくりと歩みを進めると、道端にちらほらとヨエク兵が落ちている。


血溜まりが出来ていないから、死んではなさそうだな‥


リルがやったんだろうけど、リルが手加減できる事が驚きだ。


そういえばノギスと闘ってた時も手加減していたような‥


それじゃあ、なんで俺の時は本気で殺りに来てるんだよおい。


しかしリルがヨエク兵と戦っているはずなんだが、銃声が一回も聞こえない。


よく見れば辺りが薄い霧に包まれているようだ。

多分リルのスキル【刀纏水姫】かな。


「よろいぜんぶたおした‥」


リルが辺りを索敵して戻ってきた。

全部倒したのなら索敵じゃないんじゃないですかね?


「リル。ヨエク兵は何人くらいいた?」


「6にんいた‥ぜんぶよわかった‥」


おそらく冒険者ギルドの見張りってとこか。

王様を匿ってる奴らが接触するのを確認するためか、それともギルドにどれくらい冒険者が残るのか確認するためか‥


まあどちらにしろ、うちの血煙狂人(リル)に瞬殺されたわけだが。


俺たちはそのまま全員で冒険者ギルドに向かう。


冒険者ギルドに近づくと中から数人の話し声が聞こえてきた。


「ギルマス!防衛なんて言ってないで、こっちから攻め込もう!」


「問題ない。俺のスキルの事は知ってるだろう。冒険者ギルドの建物くらいは守る事ができる。それにヨエクの兵は銃を持っているんだ。下手に攻めたら全滅するぞ。」


「しかしっ!これ以上ヨエクに好き勝手されるのは我慢できない!」


「まあ待て。今この街に凄腕の冒険者が来ている。彼等と協力すれば、この状況を打破できるはずだ。」


ん?

それって俺たちの事かね?










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