第751話

わたしは部屋の中で訪問者が来るのを待つ。

 

窓から来る可能性もあるので、窓と扉から一定の距離をとる。


すると部屋の扉の鍵を開ける音がする。

レディの部屋を勝手に開けるなんで失礼なやつね。


開けた瞬間殴った方がいいのかしら?

でも宿の人とも争った感じじゃないから、たぶん‥


「邪魔するぞ。お前が獣人国から来た冒険者か?」


今まで見た衛兵よりも豪華というか、無駄にお金がかかってそうな鎧をつけた人が入って来た。


「ええ、そうですけど何か?」


「ふん。お前のような女がギルドからの指名依頼を受けるとはな。余程人材がいないとみえる。」


むかっ‥


「それで?そのわたしのような冒険者に人払いまでして何の御用ですか?」


「ほう。そのくらいはわかるか。女のくせにやるではないか。」


むかっ!


「それで?用は何ですかと聞いてるんですけど?言葉通じてますか?」


「ふん。小生意気な口を聞く娘だ。まあいい、お前に伝えに来た事がある。ギルドの調査が終わったようだが、しばらくここに滞在してもらうぞ。そうだな、1週間か場合によっては一月といったところか。」


わたしは王様を救出するまでは滞在するつもりだったけど、自分の意思で残るのと人に命令されるのとは話が違ってくる。


それにこんな失礼なやつに言われて、はいそうですかなんて言いたくないわね。


「理由を聞かせてもらえますか?わたしが冒険者ギルドから依頼を受けて来ているという事は知っているみたいですけど、意味までわかってはいないんでしょうか?冒険者ギルドは各国で中立の立場。それを一国の都合で指示されても困りますけど?」


「そう言うと思ったさ。しかし俺は親切心で言ったんだがな。大人しく言う事を聞くのであれば、俺はこのままお前の武器を預かって立ち去ろう。だがもし聞かないのであれば少し痛い目にあってもらうぞ。」


「ふ〜ん、痛い目ね。」


「はっ!随分と余裕ではないか。お前は格好からして格闘士だろう?だがお前の武器であるガントレットはテーブルに置いたままだ。裸拳でフルプレートを装備している俺と戦う気か?モンスターとは訳が違うぞ。それにもしガントレットをつけていたとしても、俺のミスリルを使ったフルプレートに傷をつけれるとは思えんがな!」


なるほど。

その自信があったから、こんなに余裕ぶってたのね。

でもミスリルを使ったって言ってるけど、ほんの一部分じゃない。


「それじゃあ試してみてもいいかしら?もし攻撃が効かなかったら大人しくこの部屋で許可が出るまで待っておくわ。」


「ぐはは。面白い、やってみるがいい。そのかわり失敗したら俺の靴を舐めるくらいはしてもらうぞ!」


うん。

ごめんマルコイ。

我慢できなさそう‥


わたしはフルプレートをつけている男に近づく。


うん、やっぱりこれよね。


男の悪趣味な鎧に手を添える。


「ふはっ!もう諦めたか?そうだな、そんな裸拳で俺の鎧を攻撃したら、お前の拳がズタズタになるからな!ふはははは!いい判断だ!」


「『魔浸透』」


わたしは火属性の魔力を気で包み、男の中に流す。


魔力は鎧を通り抜け、男の体に入ると気を破裂させて男の内部の魔防を取り払う。


そして残った火属性の魔法が身体の中で爆発する。


「おべらっ!」


男は口から火を吐き、その場に崩れ落ちた。

そして口を抑えて悶え苦しむように地面を転がっている。


「そこまでないでしょ?死なない程度に魔力を抑えてたんだから。」


「がふっ!がはっ!はぁはぁはぁ‥き、きしゃまいったい何をした!さては卑怯な真似をしたんだな!ゆ、許さんぞ!」


口が減らないやつね。


わたしは自分の拳を気で包みこむ。


そこに抑え気味の魔力と気を融合させて、拳に纏わせる。


「誰が卑怯者よ!」


男の鎧に当たったわたしの拳は、爆炎を上げて男の鎧を削り取る。


「な、な、な‥」


男は大きく口を開けてこちらを見ている。


「何よ!」


「ひっ!」


男は悲鳴をあげて後退りする。


「ひっ、ひゃあ!ば、ばけものだー!」


男は悲鳴を上げながら転がるように部屋から出て行った。



だ、だ、誰が化け物よ!








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