第750話

冒険者もあまりいない状況だったので、受付の人を捕まえてしばらく話をしていると肩をぽんぽんと叩く気配がした。


キリーエね。


このまま帰ると怪しまれるかもしれないから、一応ギルドマスターの元に向かう。


もちろん衛兵がついてくる。


わたしがギルドマスターの部屋に入ると、衛兵は部屋の入り口に待機した。


「お忙しいところにすみませんギルドマスター。」


「いえ、構いませんよ。貴方のような美しい方ならいつでも大歓迎です。」


昨日会った時はもっと切羽詰まった感じがしてたけど‥


キリーエと話をして肩の荷が降りたのか、表情が明るい。


キリーエとどんな話をしたのか気になるけど、今は怪しまれない程度に話をしておかないと。


「昨日もお話ししましたけど、プリカの冒険者ギルドの現状を確認させていただけたらと思います。」


「はい。昨日も話したように、今プリカは混乱しておりまして。落ち着いてからギルド本部には連絡しようと思ってました。」


「なるほど。今日は受付の方ともお話ししましたが、概ね同じような事を言っていました。ただ以前のようにモンスター討伐依頼はなくて、街中での依頼のみ遂行されているようですね。」


見張りの衛兵の表情がピクリと動く。


「そうですね。うちとしては依頼が滞るかと思いましたが、どこからか圧力がかかったのか討伐依頼自体ほとんど来なくなりましたので、特に問題は無さそうです。」


ギルドマスターも乗り気ね。

本当はキリーエからの話を聞いてからがいいんでしょうけど、少しくらいちょっかい出してもいいわよね。

さすがにここまで監視されていると少し腹が立つものね。


「そうなんですか‥何故突然討伐依頼が来なくなったんですかね?まるで誰も外に出したくないみたいですね。」


そんな話を衛兵に聞こえるようにしていると、入り口に待機していた人が近づいてきた。


「そこまでだ。あまり長居するな。」


はい?


「なんでそんな事を貴方に言われないといけないんですか?冒険者ギルドは中立ですよ。わたしは冒険者ギルドからの要請でここに調査に来てるんです。貴方がどんなに偉くてもそんな事を言う権利はないと思いますよ。まあこんな所で見張ってるだけの貴方がそんなに偉いとは思えませんけどね!」


さすがにさっさと出ていけと言われると頭にくるわ。


マルコイみたいに暴れたりはしないけど、ちょっと言い返すくらいはいいわよね。


「なんだと貴様!たかが冒険者風情が!」


あら?

随分と血の気の多い人ね。


でもここで騒ぎを起こしたらいけないし‥


「わかったわよ。帰ればいいんでしょ。ありがとうございます、ギルドマスター。冒険者ギルドの本部には現状をお伝えしておきます。」


「ああ。よろしく頼む。」


わたしはギルドマスターに頭を下げて部屋を出ようとする。


「ちっ!」


部屋を出るぎりぎりで舌打ちが聞こえた。


わたしは振り返り、監視していた衛兵の顔を確認する。


覚えたんだからね。

絶対仕返してやるんだから。





わたしはギルドを出て、泊まっていた宿に戻るために歩き出す。


いつもならキリーエが出てくるはずなんだけど‥


歩きながら辺りを窺うと、ついてくる人の気配がする。


なるほど。

もう監視されてるわけね。


この状態でキリーエが出てくるとは思えないわね。

とりあえず大人しく宿に戻る事にしよう。




宿に戻り、泊まっていた部屋に入る。


ギルドを出てからついてきた気配が消えない。


わたしが宿にいる間も監視するのかしら?

素性も話したし、この国の人たちとの関わりもないから特に監視する必要もないと思うんだけど‥


確かに王様に謁見したけどそれも一回だけだし、わたしたちが王様を救いにきたなんて思わないんじゃないの‥?


気配が消えない事に違和感を感じていると、急に宿から人の気配が消えて行くのがわかった。


人払いしてる?


そう思った時に、その気配が動いた。






 


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