第709話

傭兵団の事はクワイスとエルエス兄さんとの鬼ごっこをしているスネタさんに任せて、俺はグルンデルさんの元に向かった。


グルンデルさんは戦争で亡くなった人に祈りを捧げているところだった。


「おお‥タルタル神よ‥タルタル神聖国を護るために戦い、命を落とした彼らに安らかな眠りを与えたまえ‥」


えっと‥


本来ならツッコむところだが、死んだ人に祈りをあげているからツッコミ辛い‥


安らかな眠りを与えられるかどうかわからないけど、とりあえず俺も祈っとこ。


ある程度の時間祈りを捧げた後にグルンデルさんに声をかける。


「グルンデルさん。」


「はい。おや?君は‥?」


あ、やべ。

今マルコイの姿だった。

変身していた魔道具もビアルポに海底にやられたせいで重くて脱いだんだった。


「えっと‥俺はイコルからこの戦争の手助けをするように頼まれた者です。」


「おお!そうでしたか!」


グルンデルさんは周りにいた人たちに離れるように指示を出す。


「今回は本当にありがとうございました。貴方がたのおかげで神聖国を護る事が出来ました。」


「それは‥ですが、少なくない被害が出たと聞いています。」


するとグルンデルは笑顔を見せる。

嬉しくて笑っているのではない。

何か覚悟を持った人が悲しみを見せないために被る笑顔のようだった。


「確かに尊い犠牲は出ました。ですが彼らのお陰で神聖国を‥タルタル神を崇める人達を救う事が出来たのです。彼らの成し遂げた偉業は私がずっと神聖国の信者に伝えていきます。」


なんかこの人、聖王になってタルタル信者である事を隠さなくなってからパワーアップしてないか?


何というか‥人としての格というか‥

やっぱり信仰心の強さで人って変わるんだな‥


でもタルタル神だからなぁ‥


「そ、そうですか。俺たちは落ち着いてから拠点に戻ります。」


「え?そんな‥できれば国を救っていただいた方達にお礼の場を作りたいと思っていたのですが‥」


「必要ありませんよ。それよりもそのお金を亡くなった人たちの家族に渡してください。」


神聖国に行って変態と会ったら大変だ。


「それと俺たちは傭兵です。雇われた者なので。」


「それであれば報酬を高く‥」


「ありがとうございます。でもそれも必要ありません。ただ遠征費などにかかったお金はいただきますし、通常の費用はいただきますけどね。」


「それだけでは申し訳ない‥」


「いいんですよ。団長たちも、自分たちにお金を渡すよりも遺族にそのお金を渡してくださいと言ってましたから。」


「おお‥何という‥あなた達のような聖者を紹介してくれたイコル君は、本当にタルタル神様の御使い様だったんですね‥」


そ、そうですね。

そうなると思います‥


「とにかく俺たちは準備が整い次第戻ります。」


「わかりました。ひとつだけよろしいですか?」


俺が立ち去ろうとすると、グルンデルさんに呼び止められる。


「なんでしょう?」


「イコル君に伝言を伝えてもらってもよろしいでしょうか。私たち神聖国の信者はタルタル神様の御使いであるイコル君‥いや、イコル様によって助けられました。私たち神聖国の全ての信者はタルタル神様とイコル様に祈りを捧げます。そして私達が必要な時はいつでも側に参りますとお伝え願いますか。」


重い!


そんな沢山の人に祈りを捧げられても困ります!


するとグルンデルさんの言葉を聞いた後、俺の身体が淡く光りだした。


なんだなんだ?


すぐに光は収まり、光も淡い光だったため見たのはグルンデルさんだけだった。


「そうですか‥貴方様もタルタル神様の眷属の方でしたか‥」


「違います!これはたまたま魔道具の効果で出る光です!勘違いしないでください!それでは俺は帰ります!」


その場から走って逃げ出す。


後ろを振り返ると深々と頭を下げて、こちらに祈りを捧げているグルンデルさんが目に入った‥

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