第701話

「このまますんなり帰すと思っているのか?」


絶対済ませません。

もう近寄る気が失せるくらいとことん追い詰めてやる。


「無駄だ。今俺がデュワインの身体を使っているのは俺のスキルの1つだ。どれだけこの身体を痛めつけようが、俺の身体が直接傷つく事はない。しかしこの白い調味料はなんだ?恐ろしく美味しいな‥」


真面目な話をしているのに、魔王は顔についているタルタルを舌で舐めている。


「それはタルタルソースって調味料だ。このまま大人しく捕まってくれるなら腹一杯食わしてやるぞ?」


「それはそれでいいかもしれんな。腹一杯食ったらデュワインは置いて俺は帰らせてもらうがな。」


そうか‥

食べ物で釣ってどこかに閉じ込めとくって事も出来ないのね。


毎日タルタル料理を腹一杯食わしてれば、多種族排除なんて諦めるかなとも思ったんだが‥


「まあそうはいってもデュワインは血縁者だ。食べるだけ食べて、その場に置いて置くのも気が引ける。今はまだ動けるからな。全力で逃げさせてもらうぞ。」


魔王は残った魔力を使い、氷人形を作り出す。


とりあえず逃げそうだったので、手近にあった物を掴んで投げる。


あ、タルタルソースの壺だった。


「ぐわっ!」


当たるんかい‥


「く、くそ‥またこの白い調味料か‥タルタルソースと言ったか‥」


そう言いながら、魔王は落ちた壺を拾って脇に抱える。


「おい‥何をやってるんだ?」


「む?何をやっているだと?見てわからんのか、拾っているのだ。」


「いや、それは見てわかるわ!なぜ拾って脇に抱えてるのかって聞いてるんだよ!」


「そんなもの持って帰るからに決まっているではないか。投げたという事はいらないのだろう?ならば拾った者の物と言う事だ。つまりこれは俺の物という事になる。」


な、なんて恐ろしい理論を振りかざす奴だ‥


た、確かにそう言われてしまえば、そんな気がしてきた‥


だがまあいい。

そっちがその気なら相手してやろうじゃないか。


「残念だが、そのタルタルソースは保管してかなりの日数が経っている。時々収納から出したり入れたりする事もあったから恐らく悪くなっているはずだ。」


「なっ!なんだと!だが、それだと貴様もタルタルを食べれないではないか!」


「ふふん。残念だったな。今のタルタルは壺ではなく、密閉した箱に入れているのだ。出したら全部使い切るようにな。だから俺が悪くなったタルタルを食べる事はない!その壺に入ったタルタルは捨てるのが何となく勿体なかったからとっていただけなのだ!」


「く、くそぅ‥はっ!そうだ!ふっふっふ。残念だったな。この身体は俺の身体ではない。たとえお腹をこわしたとしても苦しむのはデュワインであって俺ではないのだ!」


「なっ!」


なんて奴だ‥

まさかそんな恐ろしい手段を考えつくなんて‥

食べた覚えのない物のせいでお腹をこわす‥

そ、そんな事魔族じゃなければ思いつかないような凶悪な手段だ‥


「お腹をこわしてまで食べなきゃいいじゃない‥」


アキーエがボソッと呟く。


そうじゃないんだアキーエ‥


これは負けられない戦いなんだ!




このまま放っておけば、魔王はお腹をこわすだろう‥

だがそうなったとしても、魔王はデュワインの身体を放置して逃げる方法をとるだろうな。


どうにか精神体の魔王までお腹をこわさせる事はできないだろうか‥


難しい問題だ‥


ん?


精神体のお腹をこわす事は出来ないけど‥


精神体を直接攻撃する事ってできないかな‥?


リルや卓の洗脳を解いた時は、2人の精神を抑えつけていた洗脳というスキルを攻撃する事で洗脳を解く事が出来た。


完全に解けた訳ではないけどね。


でも精神に作用することができるのなら、精神体である魔王本体に攻撃できないかな?


やってみる価値はありそうな気がする。


「おい魔王。」


「む?なんだ?お前の悪くなったかもしれないタルタル攻撃は俺には効かんぞ。」


「そうじゃない。悪くなってないタルタルソースを食べてみないか?」

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