第702話
俺は密閉されたタルタルソースの箱を持って魔王に近づく。
魔王も最初は疑っていたが、古くなったタルタルよりも美味しいだろうと思ったのか興味津々である。
偉大なのは作戦を練った俺なのか、それともタルタルソースがそうさせるのか‥
あ、魔王が釣れた。
タルタルソースが偉大だった‥
タルタルソースに無防備にほいほい寄ってきている。
タルタルホイホイだな。
俺はタルタルの箱を開けて魔王に見せる。
「ほらどうだ?食べてみていいぞ。」
「むぅ‥何か企んでいるのか?それともお前実はいい奴なのか?だが‥くれるというのならいただくとするか‥」
魔王はタルタルソースの魅力に逆らえなかったようで徐々に近づいてくる。
俺はニッコリと笑い、タルタルソースを匙で掬って魔王に見せる。
「ほら。遠慮するな。さっきのタルタルソースは悪くなってたから酸味が強かったろ?こっちのタルタルは口あたりもまろやかで、酸味の中にさまざまな野菜やたまごの旨味が凝縮されているんだ。うまいぞぉ。」
魔王の視線は俺が持っている匙から離れない。
そうかそうか。
そんなに食べたいか。
「そら。食べたらいい。」
俺は匙を魔王に近づける。
すると魔王は目を閉じて口を大きくあける。
む‥
作戦のためとはいえ俺が男にアーンってしてやらないといけないのは気持ち悪い‥
アーンってしてる魔王の顔に拳を放ちたくなるな‥
あとなんでアキーエもアーンってしてるんだい?
思わずそっちにやりたくなるからやめなさい。
俺は匙を魔王の口に入れる。
ふっふっふ。
それが最後の晩餐だ。
よかったな、食べたい物を食べれて。
俺は匙を手放して、魔王の顔を掴む。
「おお!こ、これは美味い!さわやかな酸味の中に様々な味が含まれている。なんて味だ!城の料理人に何としても作らせなければ!」
おい。
顔を掴んでるのに喋るんじゃない。
手のひらに唾が飛ぶじゃないか‥
「む?なんだこの手は?さてはお前の手のひらからタルタルソースが出てくるのか?」
そんな訳あるかい。
「残念だが、タルタルソースは出てこない。そのかわりとびっきりの物をやろうじゃないか。」
俺はエンチャント:勇敢なる者を発動する。
さっきの戦いでは木偶人形を使ってたからな。
エンチャント一回分の魔力は溜まっている。
「くらえ!光波破壊爪!」
俺は魔王の顔を掴んだまま、光属性を流し込む。
「む!何をするかと思えば‥そんなもの俺に効くはずがなかろう。今の俺は精神体だ。無駄だ!」
くそっ!
やはり効かないのか?
いや、諦めるな!
爆ぜよ!俺の魔力よ!
「いくらやっても無駄だと‥ん?」
魔王の動きが止まる。
「なんだこれは?なんだこの違和感は‥?むおっ!こ、こ、これはっ!あばばばばびびびっ!」
むっ!
効いてきたのか?
よし!
喰らえっ!フルパワー!
「や、やめ‥あばばばばばばっ!」
おお‥
効いてる効いてる。
問題はこれが魔王本人にも効いてるかどうかだよな。
ちょっと一旦やめて様子を見てみるか。
「あががががが‥な、何をしたお前!俺の本体がビクンビクンしてるぞ!今のは光属性か!?」
ほう。
他の魔族に取り憑いてても自分の状態が確認できるんだな。
俺の【アバター】より使い勝手がいいのか?
でも俺の【アバター】は入った生き物に俺の能力がプラスされる感じだけど、魔王のスキルは制限がかかるっぽいもんな。
まあ効いてるっぽいから続けるかな。
「お、お前は何者だ?勇者ではないといったが光属性を使える‥あばばばばばばばば!」
うん。
今日だけでその質問何回もされたから答えるのが面倒くさい。
どこまで効くかわからないけど、とりあえず魔力が続く限りやってみよう。
しばらく続けていると魔力の残量が少なくなってきたのか軽く目眩がしてきた。
エンチャントを解除して魔王の様子を見る。
魔王は頭から煙を出して俯いていた‥
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