第697話
「ぐ、ぐはっ‥」
魔王はその場で蹲り、肩で息をしている。
これで諦めてくれたりしないわよね‥
「ま、魔闘士だと‥?聞いた事のないスキルだな‥てっきり魔法使いと思って油断したぞ。しかし‥面白いなお前。ますます興味が湧いてきたぞ。」
そっかぁ‥
やっぱり諦めたりしないわよねぇ‥
「もっとお前の力を見せてみろ!」
魔王はその場で立ち上がり、また笑みを浮かべたまま突っ込んできた。
だから気味が悪いんだって。
魔王はわたしの前までくると、先程とは違い大振りの攻撃ではなく小刻みに連撃を放ってきた。
わたしはその一つ一つを受け流しながら様子を伺う。
喰らってもさほどダメージはなさそうだけど、魔王は大きな攻撃を放つタイミングを見計らっているみたいだからもらわないのが正解だろう。
しかし魔王の攻撃を受け流す際に、こちらの気を流し込んでいるのだけど反応がない。
普通だったら腕に違和感を感じるはずだ。
嫁探しおバカのリュストゥングにも通じた、攻撃を兼ね備えた防御のはずだけど‥
あまり流し続けると、攻撃のための気がなくなるわね‥
しばらく攻撃をいなしていると、ようやく魔王は腕に違和感を感じたのか、突然攻撃が大振りになった。
でも疲れた素振りはないので、攻撃が当たらなくて苛立っただけのような気もする‥
わたしは大振りになった攻撃を見逃さず、魔王の拳を逸らす時に少しだけこちらの力を付け足す。
放った拳に他人の力が注がれた事で、魔王は若干ながら前のめりに体勢を崩す。
多少なのですぐに持ち直したが、わたしが反撃に出るには充分な隙だ。
溜めていた魔力と気を使い、放射式の爆殺拳を魔王の顔めがけて放つ。
当たらなくてもいい。
相手の視界を奪う事ができたら儲け物だ。
突然目の前に現れた爆炎に顔を背けなかったのは流石だけど、反射的に目を瞑る魔王。
好機到来!
「『魔気一閃』!」
必殺の拳を魔王に叩きつける。
魔王は反射的に両手を交差させて攻撃を防ぐ。
残念。
魔王の防御が間に合ってしまった‥
わたしの拳が魔王の両手に放たれ、魔力と気を融合させたものが流れ込む。
そして魔王の腕が爆発する。
やはり魔王は魔力も高いようで、わたしの魔気が奥まで浸透せずに爆発したようだ。
「はっはっは!凄いなお前。」
爆煙の中から出てきた魔王は両手を前に出して戦闘の構えをとる。
ダメージがない?
魔気は魔王の腕で爆発したはずだ。
たとえ魔王の魔力が高かったとしても多少のダメージは入ったと思ったんだけど‥
「魔闘士とやらがここまで強いとは思わなかったぞ!」
「その割にはダメージ受けてないみたいだけど‥?」
「ふふん。それはスキルの効果だ。後で教えてやるよ。その前にお前に聞きたい事がある。」
聞きたい事?
どうせ本当に勇者じゃないのかとかそんな事でしょ。
「何回も言うけど、わたしは勇者じゃないわよ。」
「そんな事ではない。お前番いはいるのか?」
番い‥?
つ、つがい!?
「い、いないわよ!い、いや、やっぱりいるわよ!」
「ほう。やはりお前くらい強い女ならば番いの1人や2人はいるだろうな。まあいい。おいお前。俺の番いになれ。」
お、俺の番い?
な、なんて事言ってるのこいつ!
「俺のスキルに関係する事なのだが、俺が番いに求めるのは強さなのだ。お前は人族ではあるが上位魔族よりも強い。お前に俺の子を産んでもらうと、ますます俺は強くなる。」
こ、こ、こ、子を産むですって!
な、何てやつなの!
そ、そ、そんな言葉でわたしの動揺を狙うなんて!
そ、そんな事でわたしはど、動じないわよ!
「お前も番いが強くないと納得するまい。いずれ俺自身の身体で会いに来るが、その前にこの身体でも強い事を証明してやろう。」
魔王は先程までとは違い、表情を引き締めて迫ってくる。
びっくりしたけど、お断りよ!
わ、わたしにはマルコイがいるんだからっ!
強さなんか見せる前に倒してやるわ!
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