第692話
「申し訳ありませんハーフェル様。『変換門』!」
「なっ!何をしてるのビアルポ!私がいなければあいつには勝てっ」
「すみませんハーフェル様‥ハーフェル様はまだ魔王様に必要です。この男は私が命に変えても始末します。」
ハーフェルが消え、その代わりに大量の魔石が現れた。
そして魔石はしばらく経つと光を失って砂のように崩れた。
ちっ、1人逃したか‥
逃す時にそれらしい事言ってやがるけど、こいつらがしようとしていることは他種族の滅亡だ。
とてもじゃないが容認できる事ではないし、ここで倒すべき敵だ。
向こうにも何か事情があるかもしれないが、それで滅亡させられてはたまったものではない。
本来は厄介なスキルを持っているハーフェルもこの場で倒しておきたかったが仕方ない。
しかし転移系のスキルを持っている魔族を倒せるのは大きい。
この場でしっかりと倒させてもらう。
「先ほどの戦いを見てわかったよ。ハーフェル様があれだけ警戒される理由。そして私では君を倒す事ができないって事が。」
「なら何故残った?」
「残念ながら私のスキル『変換門』は厳密には転移ではない。等価交換で交換するだけだ。そして物や人を交換する事は出来るが、自分自身を交換する事はできない。」
なるほど。
行き先に何か物を用意する事で、それと交換できるわけか。
だからハーフェルが消えた代わりに大量の魔石が現れたって事か‥
しかしあれだけの量の魔石が必要になるのであれば、そうそう使えるものではないな。
あれだけの魔石を使用して移動するのはコストが悪過ぎる。
もしかしてモンスターを呼んだのもこいつの仕業か?
あれだけの量を呼び込むのであれば、消費した魔石はかなりのものだろう。
それだけここでの戦いに力を入れていたってわけか‥
まあ残念。
全力で阻止させてもらいましたけど。
「普通に戦ったとしても君に勝つ事はできない。なので搦手を使わせてもらう。君の魔力量からして一回しか使えなさそうだ。」
ビアルポは背負っていた袋を地面に下ろす。
そして中から大量の魔石を取り出す。
何を思ったか、ビアルポはその魔石を宙に放り投げた。
「確実にいかせてもらう!『変換門』!」
ビアルポが投げた魔石がある空間が歪み出す。
そしてその歪みから、モンスターが現れた。
モンスターと言っても、戦場で戦っている中型ほどのモンスターばかりだ。
それに特に高ランクのモンスターはいない。
オーガやオーク、ウルフ系などのモンスターばかりだ。
ふむ。
この程度のモンスターじゃ足止めにもならないが‥
俺は迫ってくるモンスターを剣を使い撃退する。
何か仕掛けてくるのか?
俺はいつでもエンチャントを発動できるようにして、様子を見ながらモンスターを倒していく。
するとビアルポはモンスターの影に隠れながら俺に接近してくる。
あまり戦いに向いたスキルを持っていないようだな‥
モンスターの影に隠れて移動しているが、動きがはっきりと見えている。
ウルフ系のモンスターの攻撃を躱して斬り捨てた後にビアルポがナイフを持って攻撃してきた。
俺は身体を捻り、ナイフを躱しながらビアルポの持つナイフを腕ごと斬り落とす。
何が目的だ?
これだけわかりやすい攻撃を仕掛けてくる理由は‥?
ビアルポは腕を斬り落とされた事など意に介さず、残った腕で俺の剣を待った腕を握る。
俺は剣を持ち替えて、掴まれた腕を斬り落とそうとする。
「私の方が一瞬だが早いね。腕一本で君を倒せるなら御の字だ。それではいい旅を『変換門』!」
突然俺の視界が歪む。
視界が開けると同時に身体が恐ろしい程の力で押し潰されそうになる。
息が出来ない!
周りを見ようとすると目の中に水が入り込む。
その視界すら赤く塗りつぶされそうになる。
こ、この圧力をどうにかしないと!
俺はエンチャント:守護する者を発動する。
身体を押し潰そうとする力に徐々に慣れていく。
視界も元に戻ってくる。
一面青い世界だ。
もしかして‥
ここは水の中か‥?
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