第693話
「なっ!マルコイさんが消えた?」
戦場にラケッツの悲壮な声が響く。
「ぐっ‥腕一本は持っていかれたがな。彼さえいなくなれば君たちに勝機はあるまい。今は優勢かもしれんが、そのうち我ら魔族が優位に立つ。私達はゆっくりと君たちを追い詰めればいいだけだからな。」
「マ、マルコイさんをどこにやった!」
「彼は今頃海の底に沈んでいるさ。魔族でさえ到達出来ないほどの深さの海だ。息が続く間に戻ってこれるとは思えんし、海は下に潜れば潜るほど身体にかかる重圧が重くなってくるのだ。今頃海の藻屑となっているだろう。」
魔族と戦っていたエルエス兄さんとスキャンが目を合わせる。
「な〜んだ、海の底か。だったら問題ないだろ。てっきり敵の本拠地にでも連れて行かれたかと思ったぜ。それはそれで面白かったかもしれないけどな。」
「ええ。海の底程度ならすぐに戻ってきますよ。」
「な、何を言ってるんだ君達は?海の底だぞ?人族が戻ってこれるはずなかろう!」
「え?マルコイさんですよ。海の底だろうが、地の底だろうが何事もなく戻ってきますよ。あの人を普通の人族と思ったら大間違いだ。」
「ふん!自分達が信じていた者が死んだのだ。信じられん気持ちはわかるがな。だが心配するな。ちゃんと君達も彼の元に送ってやる。魔族の恐ろしさをたっぷりと教えた後にな。」
ビアルポは袋から大きな魔石を出す。
「これが最後の魔石だ。私のスキルは魔力の大きさで交換する魔石量が決まる。ドラゴンなど内蔵している魔力が高いモンスターは無理だが、魔力が低いが強力なモンスターを呼び出すにはこれくらいの魔石で充分だ。我が同胞達を相手しながらモンスターを相手できるかな?」
ビアルポがスキルを使用する。
魔石周辺の空間が歪み、魔石があった場所からモンスターが歩出てくる。
「大きなモンスターほど梃子摺るだろう。ではこのトロールの相手をしてもらおうか?」
クワイスの操るデッカイ程ではないが、かなり大きなサイズのトロールが出現した。
「かなり苦戦してしまったが、君達を倒して終わりだ。後は神聖国を落とさせてもらおう。」
「いやいや、悪いが帝国兵に関しては国にお帰り願おう。魔族のお前たちはここで倒させてもらうがな。」
トロールの目の前に立ったマルコイがそう告げた。
自分のいる場所がわかった。
おそらく海中深い場所だ。
身体を押し潰そうとする力にも抗えるようになってきた。
しかし息が出来ないのは相変わらずだ。
このままでは死んでしまう‥
俺はすぐに【時空魔法】の『転移』を使用する。
転移先はこの状況でもはっきりと場所を確定できる自分の家だ。
転移を使用する。
すぐに息ができるようになり、身体にかかる重圧も解けた。
しかしすぐに身体の中に激しい痛みを感じて吐血する。
息が出来ない!
俺はエンチャント:慈愛なる者を発動する。
スキル【聖者】を纏うエンチャントだ。
自分自身限定であるが毒や麻痺、スキルによる異常などを回復するだけでなく自身の身体を最高の状態に戻してくれる。
少しずつ息ができるようになってくる。
危なかった‥
【時空魔法】の転移がなければ確実に死んでたな。
さっきのはどこに飛ばされたんだ?
どこかの海の底だろうが‥
おそらくビアルポが事前に海の底に大量の魔石を沈めていたんだろう。
その魔石と交換で俺が海の底に沈められたって事か‥
戦闘に長けているスキルではないと思い油断した。まさかこんな使い方をしてくるとは‥
はぁ‥
身体の中がぐちゃぐちゃになったみたいだったな。
海の底に飛ばされると息が出来なくなるだけじゃなくて、身体が潰されそうになるって事か。
1つ勉強になった。
ここは‥
そうだった自分の部屋だった。
これだけ大きな音を立てたのに誰も部屋に来ないって事はみんな出かけているのか?
アキーエたちの事も気になるが、今は戦場に戻る事が優先だ。
俺はすぐに【時空魔法】の『転移』で戦場に戻る事にした。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます