第690話

「あ、あ、あんた今何したのよっ!」


悲鳴のような声を上げるハーフェル。


「何って鬱陶しかった‥知り合いが苦しんでたから助けただけだ。」


「た、助けた?今あんたが使ったのは光属性じゃないの!やっぱりあんたが勇者なんじゃない!」


「いや、違う。今のも別の場所にいる勇者に作ってもらった魔道具だ。」


ふっふっふ。

これだけ魔道具に溢れている戦場だ。

もう一つくらい魔道具と言ったところで怪しまれまい。


「な、なんて事‥そんな物まで作っていたなんて‥勇者め‥」


すまんな、正人。

ちょっと魔族からの敵意を集めそうだが、勇者だし元から集めてるから今更だよな。


「そ、それにしても仲間をあっさりと殺すなんて‥あんたやっぱり油断ならないわ‥」


「殺してはいないぞ。単純に洗脳を解くための攻撃だ。あと間違えるな、仲間じゃない知り合いだ。」


「なんですって!そ、そんな事が‥」


まあ最終的にはそうなっても仕方ないってくらいの威力でやったんだが、こいつしぶといんだよ。


「ぐっ‥ここは‥」


おっ?

気づいたみたいだな。


「え?なぜハニーがここ‥がっ!」


やっぱりまともじゃなかったか。


喰らえ!

シャイニングマインドクロー!


「あびょびょびょびょびょ!」


うむ。

出来ればこのままリルみたいに記憶なんかも失ってくれるとありがたいのだが‥


頭から煙を出し、ぐったりと動かなくなったロメントをラケッツさんの方に放り投げる。


「ラケッツさん。そいつを戦場の外に置いて来てくれ。」


「了解だ、マルコイ!」


おおう。

恍惚状態になったラケッツさんに話しかけたのは初めてだけど、男前だなぁ。


ロメントをラケッツさんに放り投げたのはいいんだけど、アシュラ君がラケッツさんの指示に従いロメントを受け止めるが、他の腕はロメントを排除対象と認識してボコボコと殴っている‥


「ほげらっ!ふごっ!あべっ!」


腕に捕まった状態でボコボコにされてる‥

ま、まあどんまい‥




さて、邪魔者もいなくなったところでハーフェルと改めて対峙する。


ハーフェルの顔には今まで以上に警戒の色が浮かんでいる。


「アフアーブも、対勇者の切り札だったエルフも無効化された。エルフは能力値が下がっていたとはいえ元Sランク。あんな風に一瞬で無効化するなんて圧倒的な力を持ってなければ出来るはずがない。勇者より、高ランク冒険者よりあんたを倒すのに全力を注ぐべきだったのね。」


ちぇっ。

俺は裏方に徹して、ラケッツさんを魔道具の勇者として表舞台に立たせて魔王退治をやっていこうと思ってたのに‥


まだハーフェルを倒せば何とかなるかな‥


ハーフェルはその場で魔力を練り始めた。

また大きな技を使うつもりか?

ロメントをラケッツさんに渡したのは早計だったか?


ハーフェルはその場で縦に長い結界を発動した。

そしてそれはそのまま霧散した。


何をした?


「ふっ。何をしたのか興味がありそうね。今のは何の効果もないわ。ただ、遠方からでもはっきりと見えるようにさせてもらったわ。残っている魔族が全員ここに来るようにね。」


なるほど。

味方を呼んだわけか。


それはちょっとまずいかも。

残りの魔族は5〜6人はいたよな。


それだけ相手だと魔力が持たないかも。


「ハーフェル様。どうなさいました?」


「ビアルポ。計画は一旦全部中止よ。残った魔族全員でこいつを倒すわよ。」


「こいつを?勇者の存在を確認出来ておりませんが‥?よろしかったのですか?」


「ここに勇者は来てないわ。私たちの作戦がよまれてた。それに今は勇者よりもこいつを倒す事が何よりも魔王さまにとって必要な事。全員でかかるわよ。」


「承知いたしました。」


まずいな。

魔族が集まってくる。

どうするか‥


「マルコイ!待たせたな!俺も戦うぜ!」


ラケッツさん!


「マルコイさん。私もお手伝いしますわ。」


スネタさん!


エルエス兄さんもスキャンも駆け寄って来ている。


そうか、俺にも仲間がいるんだった。

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