第680話

イルケルさんはあまり良い人ではなかったけど、見ず知らずのイコルを雇おうとしたり、ちょっと欲もあったけど神聖国のために偉くなろうとしていた‥気がする。


今はタルタル神殿の門番をしているけど、ここで活躍してまた騎士団に戻ってもいいんじゃないだろうか?


それに一応知人が苦労しているのはほっとけない。


まあ建前はこれくらいにしといて、イルケルさんにも魔道具を使って実験‥活躍してもらうとしよう。


「ちょっといいか?」


俺はイルケルさんに声をかける。


「うわっ!な、なんだあんたは!帝国兵か!?」


あ、鬼の面を被ってるの忘れてた。


「俺はイコルから依頼を受けた傭兵だ。すまないが、あんたの名前はイルケルか?」


「イコルの‥?あ、ああそうだ。俺がイルケルだ。お、俺になんの用だ?」


怯えてるなぁ。

そんなにこの面怖いかな?


「いや、イコルは俺の友人なんだが、そのイコルがあんたに随分と世話になったと。だからあんたを見かけたら気にかけてやってくれとさ。」


「そ、そうかイコルが‥俺はあいつがそう感じるほど世話を焼いたつもりはないんだけどな‥」


そうだね。

自分が成り上がると思ってたから俺を雇おうとしてたし。


「まあその辺の事情は知らないが、イコルには俺も恩がある。だからあんたにこれを渡そう。」


俺は革製で作られている鎧を渡す。


「この鎧には火属性の力が込められていて相手の攻撃を喰らった時に火の加護が発動する。」


「なっ!そ、そんな凄い魔道具を俺がもらっていいのか?」


「ああ。俺はこれをイコルに預かったんだ。渡すかどうかは俺に決めてくれってことだったが、あんたを見て渡そうと思った。是非これを使って神聖国を勝利に導いてくれ。」


「あ、ありがとう‥わかった!これを使って神聖国の力になってみせる!」


「ああ。頼んだぞ。」


イルケルさんはすぐに今装着している鎧を脱ぎ、俺が渡した鎧を身につける。


そして俺に頭を軽く下げて、戦場に走っていった。


「た、隊長!イルケルが独断で行動しております!」


「うむ、規律違反だな。だが今は咎める暇がない。この戦いが終わったから尋問だ。」


イルケルさん‥


かなり活躍しないと説教を喰らいそうだぞ‥





イルケルさんを追って戦場に向かう。


お?

さっそく敵の集団に突っ込んで行ってる。


いや、でも自分で言うのもなんだが、初めて会った奴にもらった魔道具をそこまで信じて突っ込むもんかね?


それだけ功名心に焦ってるのかな‥?


今回俺がイルケルさんに渡した鎧は、『爆発鎧クルッと回ってアタック君』だ。


元はラケッツさんに渡した爆発鎧の改良タイプだ。


前回ラケッツさんに渡した鎧は木製で出来ており、一度爆発するとその部分は交換する必要があった。


しかし今回渡したタイプは皮で出来ており、その下は粘着性のある布で出来てる。


一度爆発しても、その部分を布同士がくっついて再度火薬を貯める事ができる。


細かく仕切りを作っているので爆発出来る回数も多い。


でも一番の特性は『クルッと回って』のところだ。


前回の鎧から爆発の方向性を決めてはいた。


それは攻撃に対して反射する形で爆発して相手にダメージを与えていた。


だが今回の鎧はそれだけではなく、それに回転を加えるようにしたのだ。


爆発を相手にダメージを与える事を第一の目的としていたが、それを推進力として使う事にしたのだ。


攻撃された方向に反射して爆発してダメージを与え、爆発した推進力で円を描くように回転する。


そして回転した事により遠心力も加わり、より強力な攻撃を放てるわけだ。



敵陣に突っ込んだイルケルさん。


やはり騎士団で部隊長になりかけただけあって、剣捌きはなかなかのものだ。


しかし敵陣深くまで単独で入り込んでいるため、さすがに多勢に無勢で敵の攻撃を捌けなくなっている。


敵の剣がイルケルさんの身体に触れる。


そして‥


爆発が起こった。

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