第671話
「ねえ正人‥これってあたし達ついてくる意味あったの?」
「んあ?そうだなぁ‥‥‥ないんじゃね?」
「やっぱそうよね‥」
あやめは目の前で起きている事に理解がついていかなかった。
今回トールルズが襲われていると聞いて魔族関連だと思い、アキーエ達について他の冒険者達とトールルズに駆けつけた。
魔族特化しているあたし達パーティなら、もし魔族がいたとしても役に立てるしアキーエ達を守る事ができると思ってた。
だがそれは思い上がりだった。
トールルズの首都プリカについた時は集まっているモンスターを見て死を覚悟してしまった‥
この世界に残り元の世界に帰るために生きると決めた。
だがこの世界は死が元の世界より身近にある事を知っている。
もしかしたら元の世界に帰る前に死ぬかもしれない。
それが今日かもしれないと思った‥
「よし!一旦ここでモンスターを迎撃するぞ!馬車を止めて各自戦闘態勢に入れ!」
高ランクの冒険者を率いているバラックスさんの声が響く。
バラックスさんはマルコイの家に遊びに来る陽気なおじさんで、いつも口を大きく開けて笑っている印象だった。
そのバラックスさんが見せた事のないような真剣な表情をしている。
確かにトールルズの首都に群がっているモンスターを見るとそうなると思う。
こちらに向かって来ているモンスターは、今のあたし達だとパーティみんなで1匹ずつ相手しないと勝てないようなモンスターだ。
それが集団で向かってくる。
さっき物凄い強さを見せていたマルコイの奥さん達も、これだけの数を相手する事はできないだろう。
数匹楽しそうに倒していたが、それもいつまで続くか‥
生き残れるかわからない。
だったとしてもあたし達ができる事は目の前の敵を1匹でも多く倒す事だ。
足の速いモンスターはすでに目の前まで迫っていた。
「正人!正面から犬がくるわっ!」
「犬?首が2つもあったら犬って言わねえんじゃね?」
「あれはオルトロスと言って地獄の番犬ケルベロスの兄弟と言われているモンスターだね。あんなものが見られるとは異世界サイコー!」
「ありがと卓。で、弱点は?」
「そうだね‥尻尾の蛇に気をつけよう。」
「ありがたい助言ね。」
「あやめちゃん来るよ!」
「はーい!ありがとう恵!『堅牢』!」
あやめ達の周りに光の壁が出来る。
「『光よ!敵を打ち破る者に勇気を!』」
恵が4人の防御力を上げる。
「『雷よ!』」
卓が放った魔法がオルトロスを直撃する。
ダメージはそれほどないが、一瞬だがオルトロスの動きに精彩が欠ける。
「おりゃ!」
あやめが盾を使い、オルトロスの顔を殴る。
1つの顔にダメージを受け、たたらを踏むオルトロス。
「1つもらい〜!『光剣』」
光を放ち切れ味を増した正人の剣が、オルトロスの首を一本斬り飛ばす。
「ギャヒン!」
あやめがとどめを刺そうと近寄ると、蛇の尻尾が襲いかかって来た。
しかし尻尾は光の壁に阻まれ、あやめに攻撃する事は叶わず、あやめの槍で弾かれる。
「『風よ彼の敵を切り裂け!風牙』」
卓の魔法がオルトロスの身体を切り裂く。
オルトロスは満身創痍になりながらも立ち上がりあやめ達を睨む。
「とどめっ!」
正人がオルトロスに駆け寄る。
オルトロスはその場から動かない。
その時、オルトロスの口元で赤い光が踊っているのをあやめが見つける。
「正人!何かするわ!避けて!」
正人はあやめの言葉に反応して転がるようにその場から回避する。
するとその上をオルトロスが口から放った炎の塊が通り過ぎる。
「うあっぶね〜!」
炎の塊を放った事で隙ができたオルトロスにあやめの槍が突き刺さる。
残っていたもう1つの頭を槍で潰された事でオルトロスは動かなくなる。
「よかった。みんな無傷ね。傷を負ったら恵にすぐ回復してもらって。1匹でも多く敵を倒すわよ!」
「おけおけ!」
絶対に生き残る!
そう決心して悲痛の表情で顔を上げたあやめの視線の先をサイクロプスがボールのように通り過ぎていった。
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