第670話

「ちょっ!『爆炎球』!」


アキーエの両手から地面に向かい爆炎の魔法が放たれる。


2つの魔法は地面にぶつかり大爆発を起こす。


魔法が地面で爆発した事で起こった爆風により、アキーエのスピードが若干緩和される。


しかしそれでもかなりのスピードが出ているため、慌ててもう一度魔法を放つ。


アキーエの進むスピードは速く、1度目の魔法で減速が出来なかった事に気づき2度目の魔法を放った時にはトールルズの首都プリカまでの距離がかなり縮まっていた。


結果、アキーエの手から放たれた魔法は、地面ではなくプリカの城壁の下方に直撃した。


何度も高ランクモンスターの攻撃を凌いでいたプリカの城壁は、アキーエの魔法の一撃で大穴を開ける事となる。


プリカの城壁に穴を開けたお陰で、アキーエのスピードは減速して何とか無事に着地する事ができた。


減速はしたものの、勢いがあったため地面の上を転がる事にはなったが‥


「あいたたた‥危なかったわ‥まさか羽根人形の力で止まれないとは思わなかった。思わず魔法使っちゃったけど大丈夫だったからしら‥」


アキーエは身体の泥や埃を叩きながら周りを見る。

アキーエの放った魔法で周りは焦土となっていた。

モンスターはもちろん1匹も残っていない。


「お、おいお嬢ちゃん大丈夫か!?」


突然ドワーフの男性がアキーエに話しかけてきた。


「え?ドワーフ?な、なんで?わたしプリカの中に入っちゃったの?」


声をかけてきた男性がドワーフだった事にアキーエは驚く。


「何を言ってるんだ嬢ちゃん!もしかして嬢ちゃんは他の国から来た冒険者か?だとしたら危ないから早くこっちに来な!今嬢ちゃんがいるところはモンスターからの攻撃で穴が開いてこっちと繋がったんだ!この城壁を破壊するほどの化け物級のモンスターがこっちに迫って来てる!この穴は埋めるから早く中に入れ!」


「えっと‥」


アキーエは考える。


自分がいる場所が城壁の外なのに、プリカの中にいるドワーフと会話ができている事。


そしてドワーフが言う魔族の攻撃で城壁に穴が開いてしまった事。


あれ?

これってわたしの魔法のせいで穴が開いたんじゃないかな‥?


その事に気づいたアキーエはすぐに切り替える。


「大丈夫です!わたしはこう見えて高ランクの冒険者です。仲間もすぐに駆けつけるでしょう。しかし穴が開いた状態の城壁を放っておくわけにはいきません!わたしがここでモンスターの相手をする間に穴を閉じてください!」


「しかし!それじゃあお嬢ちゃんがっ!」


「さっきも言ったでしょう!わたしは高ランク冒険者なんです。爆発でこの辺りのモンスターは倒されましたが、すぐに集まってくるはずです。その前に急いでください!」


「わ、わかった!お嬢ちゃん‥‥‥絶対に死ぬなよ!」


「ええ。」


アキーエは壁の中に戻りながら周囲の人たちに指示を出しているドワーフを見つめていた。

額に冷たい汗を流しながら‥






やばいわ!

猛烈にやばいわ!


あの壁ってわたしが壊したのよね‥?


運がいいことにドワーフの人は勘違いしてモンスターの攻撃って思ってくれてたけど‥


ちゃ、ちゃんと説明して謝らないと‥


で、でもとりあえずこの戦いが終わった後にしないと混乱するわよね。


よ、よし!


「モ、モンスター共め!これ以上プリカは破壊させないわよ!」


アキーエがいる辺りは爆炎でモンスターが倒されている。

そのため遠巻きに見ているモンスターたちに改めてそう告げる。


「なんだ貴様は?まさかここに向かって来ていた馬車に乗っていたやつか?ゴヤのやつめ‥ゴミを見逃すとは‥やはり新人は使えんな。」


1人の男がモンスターの後ろから歩み出てきた。


髪は長くまるで女性のようだが骨格は男性だ。


男は種族の特徴である真っ赤な眼でアキーエを見ている。


「魔族ね!もうこれ以上プリカに被害は出させないわよ!」


「ふん。何の爆発かわからんが、せっかく開いた穴だ。そこから入って中を蹂躙させてもらう。邪魔だからさっさと死んでもらおうか。『氷外鎧』」


魔族の男はスキルと思われる氷の鎧を身体に装着した。


「な、なんで氷なのよ!火を使えばそっちのせいに‥‥な、なんでもないわ!かかってきなさい!」


アキーエと魔族の戦いが始まった‥

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