第651話

ラケッツが2度目に放った魔道具も、綺麗な放物線を描いてラーシュの元に放たれた。


魔族は光属性でない限り致命傷は与えられない。

それ以外の攻撃については放っておけば治癒してしまうのだ。


だがそのスピードは瞬時に治るものではなく、徐々に回復する。


そのため魔族は倒さなくても、以前マルコイがエルフェノス王国で戦った魔族のように、高ランク冒険者により動けなくなるまで傷を負わせて捕らえる事ができる。


しかし種族的に能力値が高く、更に魔族の中でも上位に属する魔族を捕らえるのは、高ランク冒険者でも不可能に近いのだった。





ラーシュの目は強い光によって焼きついてしまったが、魔族の特性により徐々に回復していた。


だがまだ光を感じる程度で、飛んできた物を認識できず、わずかに感じている光を遮った物に対して手を出してしまう。


ラケッツが投げた魔道具に対して‥‥






「くそっ!どこだ!殺してやる!殺してや‥」


周りに鉤爪を振り回していたラーシュに魔道具が飛来する。


辛うじて感じていた光を遮る何かに対して、思わず手を伸ばすラーシュ。


そして自分の命を奪う魔道具をその手に掴んだ。


「なんだこりゃ?まさかまた魔道具かっ!」


すぐに投げ捨てようとしたが、魔道具はラーシュの手の中で爆発した。


音はせず、先程の閃光弾と同じように光だけが溢れた。


しかし今度の光はラーシュの目を焼くのではなく、魔族であるその身体を焦がし始めた。


「ぐわぁー!な、な、な、なんだよコレ!何で俺の身体が焼けてんだっ!がぁ!あ、熱い!お、おい!お前ら助けろ!見てないで助けやがれっ!」


ラーシュは周りにいる帝国兵に声をかける。


しかし周りにいる帝国兵は視力を失っていてそれどころではなく、遠方にいる帝国兵も状況がわからずに動けずにいる。


「ああ!俺の‥俺の身体が!熱い!痛い!ハーフェル!助けてくれっ!」


ラーシュの身体は爆弾を掴んだ手から徐々に焦がれていき、ラーシュの心臓部まで到達した。


「あがぁ!嘘だ、俺様がこんな所で‥クソクソクソク‥‥‥がっ‥」


そのままラーシュは地面に倒れ込み動かなくなった‥‥‥





ラーシュが絶命する様子を注視していた者が2人いる。


1人はラーシュを魔道具を使って倒したラケッツである。


「うわぁ!マルコイさん!何てものを渡すんですか!人が焦げてるし!あ、魔族だからいいのか‥いや、それでも怖いっ!」


混乱するラケッツ。


思わずその場を離れて味方のいる場所に駆け出す。


もちろんその道中も帝国兵を薙ぎ倒しながら。


しかしもう帝国兵を討伐するなどという目的など忘れていた。


「ほう!貴様強いな!帝国軍の部隊長である俺と戦えっ!帝国兵では俺に敵う者などおらん!俺が相手してやる事を光栄に思うがいい!」


「もうそれどころじゃないんだよ。俺に構わないでくれよ。魔族だろうが帝国兵だろうが‥帝国兵?あんた魔族じゃないのか‥?」


「ふん!俺は人族だ!魔族などではない。さあかかってくるがいい!」


(人族なら大丈夫なのか?いや、あんまり目立ったらさっきみたいに‥でもこの魔道具があれば帝国最強だろうと‥‥それに魔族も倒せたんだ‥)


「ふん!帝国最強?そんな小さな国で最強だからと言って俺に敵うと思っているのか!この魔道具王ラケッツが捻り潰してやる!」


さっきまでの混乱も収まり、また恍惚状態になったラケッツは戦場に再び舞い戻った‥







そしてもう1人。


帝国兵側からラーシュの様子を見ていた者がいる。


(な、なんなのよあれは?勇者の仕業なの?だとしたらさっきの魔道具を装着していた者が勇者だと言うの?)


ハーフェルはラーシュが死んだ原因となった光属性を使ったラケッツの存在に困惑する。


(でも武器を使ったわけじゃなかった。あの魔道具のような物に光属性を付加した?そんな事が出来るはずがない!)


「ビアルポ!準備はまだなの!急いで!」


ハーフェルは底知れぬ不安を感じながら、戦況を変えるための手を打つのだった‥

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