第650話
ラーシュはラケッツの、ラケッツの装着している魔道具の強さを睨みつける。
「まさか【鋭風爪】までも防ぐとはな‥クソがっ‥」
ラーシュは強者と相対した時に2つの行動をとってきた。
敵であれば自分より強い者に戦ってもらう、味方であれば取り入る。
自分は明らかに自分より弱い者を相手にして、それを踏み躙ってきた。
そして今回戦う事になったラケッツには強者の風格はなく、勝てると思ってハーフェルの指示を受けたのだった。
「ふっはっはっは!何の事だ?今まさか何か攻撃したのか?残念ながらお前の攻撃など、俺には通用せんと言っただろう!その真っ赤な目に焼き付けるがいい!この俺の強さを‥‥‥‥‥‥真っ赤な‥‥‥‥目‥?」
ラケッツは首を傾げてラーシュを見ている。
その姿勢が更にラーシュを苛立たせた。
「くそが!この俺を‥魔族の俺をコケにしやがって!」
「え‥‥?魔族?」
ラケッツの顔に焦りの色が見える。
「え?えっと‥あんた魔族なのか?」
「ああ?見てわかんねえのか?」
確かに魔族の種族的特徴である真っ赤な目をしている。
しかしラケッツは恍惚状態になっていたため、ひと目見てわかるような外見的特徴を見逃していた。
「そ、そうか、魔族なのか‥えっと‥か、勝てないのがわかっただろ?だ、だから帰るといい。」
「あ、何言ってんだお前?このまま帰ったら、アフアーブに何されるかわかんねえ。意地でもお前の魔道具を攻略させてもらう。それにお前では俺を倒す事はできない。強いのはわかったが、光属性じゃねえからな。その魔道具も魔力を使って動かしてんだろうが。だったら魔力切れまで付き合ってもらうぞ。」
「ざ、残念ながらまだまだ魔力はた、たくさんあるぞ。今なら逃げれば追いかけはしないんだぞ。」
恍惚状態から覚めてしまったラケッツは、今まで優位に戦っていた事も忘れ、混乱していた。
(ど、ど、どうする?なんで俺の所に魔族がきてるんだよ!飛んで逃げるか?でもこの魔族追いかけてくるみたいな事言ってるし‥どうすればいい?マルコイさん助けて!マルコイさん‥?あっ!)
「嫌でも魔力使い切ってもらうぜ。俺にはお前をどこまでも追いかける事ができるスキルがある。そいつをつか‥」
「えいっ!」
ラケッツはマルコイに渡された炸裂式の魔道具をラーシュに向かって投擲した。
丸い魔道具は放物線を描いてラーシュに飛んでいく。
それに気づいたラーシュは魔道具を防ぐのではなく、その場所から離れる事を選択した。
「はっ!どうせそれも何かの魔道具だろうが!束縛系か?それとも麻痺系か?なんにせよそんな物を馬鹿正直に防ぐとお‥」
ラケッツの投げた丸い魔道具はラーシュに当たる事なくラーシュが立っていた地面に着弾した。
そしてそれは‥
地表で熱のない太陽を発生させた‥
「うぎゃーっ!」
魔道具にどんな効果があるのか確認するためにしっかりと見ていたラーシュはまともに熱のない太陽を直視した。
「め、目が‥目がぁ!」
戦いに巻き込まれないように遠目で見ていた帝国兵も網膜が焼かれたように視力を失っていた。
「がぁ、み、見えねえ!」「俺の目がぁ!」
その場は阿鼻叫喚となった‥
「えっと‥あれ?光りはしたみたいだけど爆発はしなかったな‥あ、やばい間違えてた!こっちを投げるんだった!」
本来臆病な性格のラケッツは、爆弾が爆発すると思い、投げた瞬間に後ろを向いていた。
そのためラケッツは閃光弾を見ておらず視力を失うことはなかった。
マルコイは対魔族爆弾については使用する時の注意事項は説明したが、閃光弾についてはしていなかった。
ラケッツが興味本位で見てしまったら、ラケッツも視力を失っていたと思われる。
本来の臆病なラケッツの行動が功を奏した結果となった。
「ぐがぁ!貴様!許さん!絶対に許さんぞ!貴様の腑を引き裂いて、貴様の‥」
「えいっ!」
ラケッツの2発目の爆弾が無情にも投擲された‥
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