第649話

「なんじゃそりゃ!たかが木材の分際で、スキルで強化した俺の攻撃を弾くだと!?」


「ふっ‥たかが木材だと?これがただの木材に見えるのであれば貴様の実力はその程度だと言う事だ。はっはっは。」


「なっ‥‥‥クソがっ!」


ラーシュは魔道具の防御力を確かめるべく、再度ラケッツに切りかかる。


ラーシュはスキル【鋭角化】を使いながら連撃を放つ。


しかしその全てを多腕魔道具が弾き返す。


「無駄だー!」


連撃の隙をついて、ラケッツが突きを放つ。


相変わらず遠慮しているのかと思わせるスピードで放たれたラケッツの突きをラーシュは身体を捻り躱す。


ラーシュは体勢も崩さず、そのまま反撃に出る。


「そんなもん喰らうか!お前の攻撃見切っ‥ほげっ!」


ラーシュに攻撃を躱され、体勢を崩したラケッツ。


しかし不安定な体勢になった事を感じた多脚魔道具がすぐに反応し、ラケッツの身体を置き去りに程のスピードでラーシュの後ろに回る。


そして背後に回ったと同時に多腕魔道具が索敵範囲に入ったラーシュに拳を放つ。


多腕魔道具のみ警戒していたラーシュは突然上がったラケッツの速さについていけず、またしても顔面に多腕魔道具の殴打を喰らう。


地面を転がるラーシュ。


「げほっげほっ!ど、どうだ、貴様の見切った攻撃など俺の実力の半分程度だ!」


ラーシュは身体を起こし、地面に膝をついた状態でラケッツを見上げる。


「くそっ!ふ、ふざけやがって!この俺様に‥‥」


しかしラーシュは自分のスキル【鋭角化】ではラケッツの魔道具を切り裂く事ができない事を認めるしかなかった。


今までスキル【鋭角化】で切れなかった物や人はそれ程多くなかった。


ただそれはラーシュが自分より強いと思った相手とは戦ってこなかったからだが。


「ちっ‥くそが‥このままだとハーフェルにバカにされちまうな‥」


ラーシュは他の魔族が待機している場所を見上げる。


そしてラケッツと見比べる。


「面白くねぇ!」


そう言うと、ラーシュはスキルを発動した。


スキル【鋭風爪】


このスキルは不可視の爪を手から生やすものである。


そのまま切る事もできれば、射出する事もできる。


このスキルは魔法に属するため、物理耐性が高いラケッツには有効であろうと考えたからだ。


しかしラーシュはこのスキルをあまり使おうとしない。


それはこのスキルでは相手の肉を切り裂いた感触がないからだ。

相手を切り裂く感触と、泣き叫ぶ相手の顔。

これがラーシュが最も好むものである。


「まあいい。ハーフェルからお前は殺せと言われてるんだ。この際、肉の感触は諦めるとしよう‥そのかわりたっぷりとお前が泣き叫ぶ顔を見せてもらうぞ!」


ラーシュは【鋭風爪】を発動した状態でラケッツに向かって駆け出す。


そして【鋭風爪】の射程距離を最大限に伸ばし、ラケッツに攻撃をしかける。


この距離なら見えない攻撃を魔道具で防ごうとしないとだろうと思った攻撃だ。




しかしラーシュの予想はまたしても裏切られる。


ラーシュの【鋭風爪】がラケッツの身体を切り裂く前に、多腕魔道具が反応する。


そして木製の腕は手を広げて、風の爪を正面から受け止めた。


「なんだとっ!」


(つかむ事ができない爪を掴んだだと!?)


不可視、そして物理的に捉える事ができない攻撃を相手の魔道具に受け止められた。


ラーシュは慌てて、攻撃した方の【鋭風爪】を解除して反対の手に生やしていた【鋭風爪】をラケッツに向けて射出した。


飛来した爪を多腕魔道具は、円を描くような動作で全て叩き落とした。


「なんだそりゃ!お前まさか見えてるのか!?」


ハーフェルのような結界師に防がれた事がある。

アフアーブのような筋肉バカに擦り傷しかつけれなかった事もある。


しかし‥


目に見えないはずの風を掴んだりはたき落としたりなどと非常識な方法で防がれた事はない。


相手の強さを見誤った事にラーシュは下唇を噛み、ラケッツを睨むのだった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る