第648話

なんだろう‥‥?


首の後ろがゾクゾクする‥


何かこの先嫌な事が起こりそうな気がする‥


魔族が何かしてくるのか?


それとも別の何かだろうか‥



でも何故か獣人国方面からの悪寒のような気がする。

この戦いを乗り越えても新たな戦いの予感が‥

しかも負け戦のような‥



まあ今考えても仕方ない。


今は目の前の戦場に集中しよう。




戦況は神聖国側優位に動いている。


神聖国にも多少の被害は出ているようだが、帝国はその比ではない。


アシュラ君部隊が帝国兵の中に入り込み、敵を翻弄しているからだ。


特にラケッツさんが凄い。


多脚魔道具速いぞ君で敵の集団に突っ込んで、アシュラ君で敵をタコ殴りにしている。


魔道具を操作しているラケッツさんはというと‥


すっごい笑ってる‥


奇声を発して戦っている。


何故かラケッツさんの方が敵役に見えるなぁ‥


「ん?」


その八面六臂の活躍をしているラケッツさんに近寄る奴がいる。


ラケッツさんまでの道を開けるために、近くの帝国兵を投げ飛ばし、踏みつけながら進んでいる。


そして其奴はラケッツさんの前まで辿り着いた。







「ひゃはっ!お前すげーじゃねーか!その魔道具みたいな物のおかげなんだろうけどよ!まあでもここまでだ!姐さんからお前を始末しろって命令されたからよ!諦めて泣き叫んでもらうぞ!」


「あっはっは!確かにこの力は俺の力ではない。しかし俺はこの魔道具を使いこなし、この力をひきだしているのだ!つまりこの魔道具を使う俺が俺であり真の俺、新生ラケッツなのだ!」




ラケッツさんが敵と何か話をしているようだが‥

心配だけど、戦況がどう動くかわからない今、ラケッツさんのところに行くわけにはいかない。


危なくなったら、魔道具を使って逃げるんだぞ!




「ふひゃ!そうかそうか!その魔道具とお前は一心同体なわけか!おもしれえ!俺は弱い者イジメも好きなんだけど、偉そうな奴の精神をポッキリ折るのも好きなんだぜ!お前の心がどのくらいで折れるか試そうか!」


ラーシュはラケッツに向けて駆け出す。


ラケッツは悠然と構え、ラーシュの出方を伺っている。


ラーシュは腕に鉤状の3本の爪を生やした武器を装着している。


「お前の血を見せろーーっ!」


ラーシュは鉤爪を上段から振り下ろす。


ラケッツの多腕魔道具が反応し、攻撃を防ごうとラケッツの頭の上に腕を伸ばす。


「ひゃはっ!そんな木製の魔道具なんぞぶった斬ってやるぜ!」


ラーシュはトリプルスキル持ちであり、うち1つが【鋭角化】であり自身の持つ武器の切れ味を最大限に上げるものである。


軽い武器でさえ、鉄さえも切り裂くような切れ味になる。


ラーシュは鉤爪を好んで使用し、相手の身体を盾や防具ごと切り裂く事を楽しんでいた。


自分のスキルに絶対の自信を持つラーシュは力任せに鉤爪を振り下ろした。


勇猛な事を言っていたこの男が、魔道具ごと自分の身体を切り裂かれ泣き叫ぶ姿が目に浮かぶ。

命乞いするだろうか‥?

その姿を見て四肢を一本ずつ切り落としてやろう。

この先に起こる事を考えながら笑みを浮かべる。




次の瞬間、自分の身に不可解な事が起こる。


振り下ろしたはずの腕が大きく弾かれたのだ。


「へ?」


そして場違いな声を発したラーシュの顔に多腕魔道具の殴打が入る。


「ほげっ!」


そんな声を上げながらラーシュは宙に舞った‥


視界が回る。


身体の動きが止まり、空が視界に入る。

そしてようやく自分が地面に転がされた事に気づいた。


なんだ?

何が起こった?


そう思い、身体を起こして自分が切り裂いたはずの男を見る。


すると男は多腕魔道具を構えたまま此方を見下ろしていた。


「ふはっ!そんな攻撃など、この魔道具王ラケッツに通じるわけがないだろう!お前の攻撃など、このアシュラの前ではそよ風程度だ!」

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