第641話
「えっと‥この戦いなんだけど、魔族が絡んでるんだよね。だから事前にクワイスには言ってたんだけど‥」
俺はクワイスを見る。
「すまんラケッツ。他の団員には伝えたんだが、お前には伝えてなかった。多分お前は魔道具使って敵陣に突っ込む事になるだろうなって思ってさ。」
「だったら尚の事教えてくださいよっ!」
「だって教えたらお前どうにかして逃げようとするかなと思って‥」
「うっ!」
さすがクワイス。
しかしいくらラケッツさんでも傭兵団の一員なんだ。
逃げるなんて選択肢は取らないと思うんだけど‥
「そりゃ魔族がいるなんて聞いたら全力で隠れますよ!」
隠れるんかい‥
「だろ。だから準備が整ってから教えてやろうと思ってたんだよ。」
さすが団長だ。
団員の性格を把握してらっしゃった。
「もうここまで来たら隠れる事もできないし、思い切って死んで来い!」
失礼な!
死にはしないぞ!
死にそうな目にあうだけだ!
「わかった。そんな事情があるなら仕方ない‥」
「マ、マルコイさん‥本当はいい人だったん‥」
「ラケッツさんを賢者用のスペシャル装備にしてやろうじゃないか!」
「は?い、いやそういう事じゃなくて‥」
「心配ないぞラケッツさん。アシュラ君の背中に羽根人形を装着できるように少し改造したのがあるんだ。それに『脚がいっぱい速いぞ君』を装着した最強装備なら、単身で戦って尚且つ逃げる事もできるぞ!」
「い、いやそういう‥‥‥わかりました‥」
何故かがっくりと肩を落とすラケッツさん。
今現時点でスキャンの搭乗型ゴーレムに対抗できる唯一の装備と思うんだけどな‥?
しぶしぶ魔道具を装着するラケッツさん。
「はぁ‥‥それじゃあ行ってきます‥」
ラケッツさんは暗い表情のまま魔道具を発動させる。
そして速いぞ君を使い、猛スピードで走り出した。
「うおっ!この魔道具も凄い!うぅ‥‥嫌だけど‥嫌だけど、やっぱり凄い!ヒャッハー行くぞー!」
ほら。
さすがラケッツさん。
魔道具を使い出したら人が変わったかのように生き生きしだした。
そして一番乗りで帝国軍の側面に突っ込んで、大暴れしている。
それでこそ俺の知ってるラケッツさんだ。
「ほう!随分と面白い奴がいるではないか!」
帝国軍の陣地の後方で一騎討ちを眺めていた男が声を上げた。
「ありゃ強いな!神聖国にあんな奴がいるなんてな!あれが勇者か?」
「さてどうかしら?勇者のスキルじゃなかったみたいだけど‥【剛腕】じゃないかしら?」
すると奥に座っていた男が立ち上がる。
「勇者ではないようだが、ほっとくわけにはいくまい。あれは俺が相手しよう。」
「アフアーブの旦那が相手するのか?可哀想に‥まあ目立っちまったから仕方ないわな。」
一騎討ちの後、すぐに両軍がぶつかり合った。
「さて始まったみたいだな!あの強いのはアフアーブの旦那に任せるとして、俺は神聖国の兵を嬲り殺しに行くとするかっ!」
「ちょっと待ちなさいラーシュ。」
「なんだよハーフェルの姉御。まさか俺の楽しみを奪おうってわけ?」
「そうじゃないわ。あれを見なさい。」
ラーシュはハーフェルが見ている方を見る。
そこには多腕型の魔道具と思わしき物を装着して、帝国軍を圧倒している者がいた。
それも1人じゃない、数人いる。
「あれが何かわからないけど、ほっとく訳にはいかないわ。ラーシュ、あれを止めてきて。」
「えー、俺がかよ。ちっ、姉御の命令なら仕方ないか。じゃあせっかくだから、あの魔道具をゴテゴテ付けてる奴を殺してくるか!」
ラーシュはそう言うと戦場に駆け出していった。
「何かにおうわね‥想定と違ってる気がする‥」
ハーフェルは駆けていったラーシュを見ていた目を少し細める。
「ビアルポ!変換門の準備を早めて。嫌な予感がする。早めに決着をつけるわよ。」
ハーフェルは戦場に目を向けたまま、そう告げるのだった。
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