第639話

「がっはっは!おい羽虫よ!我が軍の士気を上げるために虫らしく潰れるがいい!」


筋肉は俺の胴くらいはあるような大剣を、馬に乗ったまま振りかざして突っ込んできた。


大剣を持っている腕の筋肉は、小山のように盛り上がっている。


まあ自分から一騎討ちを言い出すくらいだからな、それだけの力と自信を持ってるんだろう。


知った事ではないけどな。


エンチャントを発動する。



エンチャント:守護する者



エンチャント:勇敢なる者がスキル【勇者】なら、エンチャント:守護する者はスキル【聖騎士】のエンチャントだ。


自身の防御力を向上させるエンチャントで、エンチャント:土のようなものだ。

効果はエンチャント:土とは比べ物にならないけどな。


身体全体が鋼にでもなったようだ。

でもこのエンチャントの1番凄いところは‥



筋肉が俺の頭に向かって大剣を振り下ろす。


俺はそれを受け止めるように手を上げる。


「はっはっは!そんな細腕で俺の大剣を受け止めれるものかっ!そのまま潰れて地面のシミとなるがいい!」


ありがとう筋肉。


引き立て役としては十分過ぎるぞ。


筋肉の大剣と俺の手が触れた時、甲高い何かが割れる音がした。


そして筋肉の大剣はそれまでの勢いをなくして、俺の手に掴まれる。


すぐにエンチャント:勇敢なる者を発動して力任せに大剣を引き寄せる。


すると筋肉はまるで紙屑のように宙を舞い、馬上から転げ落ちた。


「げぺっ!」


四肢を曲げた状態で地面に張り付いている。


そうか、筋肉じゃなくてカエルだったか。



エンチャント:守護する者



このエンチャントは発動と同時に、自身に対物理と対魔法を防御する膜を発生させる。


これはスキル【聖騎士】が持っていた『堅牢』に近いものだ。


聖騎士が使う『堅牢』は、レベルが上がれば広範囲に対して高い防御力を持つ壁のような物を発生させる。


それに対してエンチャント:守護する者が発生させる膜は自分1人しか効果がない。


それも一度しか効果がないので、また使う場合は一度エンチャント:守護する者を解除してから、再度エンチャント:守護する者を発動させる必要がある。


しかしこの膜は一度限りというデメリットはあるものの、殆どの攻撃を無効化する事ができる。

ただ攻撃の無効化ではあるが、ブレスなどの効果が持続すような攻撃や連続した攻撃には意味がない。


それでも強すぎるわけだが。


アキーエの本気魔法もリルの斬撃も無効化した。

アキーエの魔法を避けずに真正面から喰らう事に、どれだけの勇気がいった事か‥


魔法を喰らう時に周りの景色がゆっくりになって、新しいスキルでも発現したのかと思ったぞ。


それとリルが「またマルコイ倒すのむずかしくなった‥」とか言っていた。


リルが本気で俺を倒そうとしてる気がするんだが‥


俺の身の安全のために、リルに光属性を付加したカチューシャみたいな物をプレゼントするとしよう。


遠隔操作であばばばできるようなやつが望ましい。



それはいいのだが、アキーエやリルの攻撃すら無効化するような物が、こんな筋肉カエル程度の攻撃でどうにかなるはずがない。


まあ躱せたし、エンチャント:勇敢なる者を発動させて力任せに弾き返すといった事もできたが、後ろに控えている魔族に見せつけてやりたかったからな。


お前らの相手は俺たちだと。


うちのラケッツさんは強いんだぜ!



俺はカエルが落とした大剣を拾う。


かなりの重量だが、エンチャント:勇敢なる者を発動させたら木の枝程度の重さしか感じない。


「く、くそが!どんな卑怯な手を使いやがった!この俺様を馬から‥ひっ!」


うるさーい。


残念ながらあんたの出番は終わりなんだよ。


俺はカエルが持っていた大剣の腹で、カエルを斜め下から振り上げるように殴りつける。


「げぺっ!」


潰れたカエルは宙を舞って帝国軍の陣地まで飛んでいった。


さて、戦いを始めようか!

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