第635話

「それは‥‥‥そうですね、イコル君が嘘なんてつくはずがありません。でもそれが本当なら心強いどころじゃありませんね。イコル君の仲間こそがタルタル神が遣わした御加護かもしれませんね。」


えっと‥


はい、そうですね。


その通りだと思います。



「彼らは準備してすでに此方に向かってます。人数はそこまで多くないので、魔族やモンスターが出たらそちらに当たってもらうつもりです。もちろん私も参加します。それでは準備がありますので私はこれで。」


そう言って退出しようとすると、バリネルさんが呼び止めた。

口の周りにいっぱいタルタルソースをつけて。


「君の自信がどこから来るのかはわからないが、魔族を舐めないほうがいい。彼らの力は途方もない。それこそ慎重な帝国の皇帝が侵攻を決めたほどの奴らだ。私はこのタルタルと共に生きる事を決めたから構わないが、そうでない君が死ぬ事はないぞ。」


意外といい人なのか?

でも口からタルタルが飛んでくるから、あまり大きな声を出さないでほしい‥


「大丈夫です。それを踏まえても何とかなると思ってますから。」


そう言って俺は部屋を後にする。


魔族か‥




ふははは。


この一月対魔族の魔道具を量産したのだ。

マルコイ印の新魔道具の実験台として恐れ慄いてもらおうじゃないか。


この世界を壊す事を狙ってる奴らに、一切の手加減はしないからな!










ライノズ帝国。


広々とした豪華な一室に10数人の男女がいる。


彼らは思い思いの格好で過ごしている。


全員が戦闘できるような姿でいるが、さまざまな職種のようで統一性はない。


ただ1つその眼の色だけは全員が同じ赤色だった。


「しっかしこの国の奴らは馬鹿しかいないんだな!俺らがこの国のために力を貸す?ああ力を貸してやるよ、その後全て回収するけどな!なあ!」


「ふん。そうね。ただ私達が下等な種族と一時でも共闘するってのは気に入らないけどね。魔王様からの命令だから我慢はするけど、同じ空間で息をするのも悍ましいわ。」


「ひゃっはっは。確かにそうだな!何か生臭い臭いがするからな!」


すると奥に座る他の魔族よりも一回り大きい男が声を発した。


「お前ら多種族を馬鹿にするのは構わんが、勇者だけは舐めてかかるなよ。今回我らが多種族と協力する理由を忘れるな‥」


「はっは!わかってるってアフアーブの旦那。魔族以外の種族に勇者共を殺させるってやつだろ?覚えてっから心配すんなって!しかしエルフごときにやられる奴らを、それほど警戒しないといけないかね?」


「勇者は魔族に対して想像を上回る力を発揮する。それこそ魔王様に届きかねんくらいな。今回の作戦で勇者を排除して魔王様の侵攻を盤石のものにせねばならん。」


「はいはい。だけど魔王様直属の十魔がアフアーブの旦那を含めて3人も来てるんだ。全然問題ないだろ?それに俺は勇者なんかどうでもいいんだよ。多種族が泣き叫ぶ姿が見たいだけだからな!ひゃはっはっ!」


すると魔族の女が扉の方を振り向く。


「ん?結界に誰か触れたわね。誰か入って来るわよ。」


すると突然扉をノックする音が聞こえる。


「どうぞ。」


返事を受けて、扉から人族の男が入ってくる。


「失礼します。ああ、皆さんいらっしゃったんですね。話し声も聞こえませんでしたから、不在かと思いました。」


「みな戦いに向けて瞑想していた所だ。それで何用だ?」


「あ、申し訳ありません。皇帝がお呼びです。もう間も無く神聖国に向かいますが、その際の皆様方の配置を確認したいと。」


「そうかわかった。俺が向かおう。皆はここで待機していろ。」


そう言ってアフアーブは男について部屋を出て行く。


「アフアーブはああ言ってたけど、懸念はいくつかあるのよね‥」


十魔の1人であるハーフェルがそう呟く。


「ハーフェルの姉御、懸念ってなんだ?」


「そうね‥リルちゃんの失踪と、モンスターの氾濫を防いだ傭兵‥それと不死のモンスターかしら。」

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