力戦奮闘
第633話
その男は悠然と壇上に上がった。
その歩幅、足を上げるタイミングなど、それら全てに自信が満ち溢れているようだ
男は眼下に映る幾千の人を見る。
男は厳かにゆっくりと声を上げる。
「我が国は長年虐げられてきた。過去栄華を誇っていた我が国がだ。特に神聖国には煮湯を飲まされ続けてきた。国宝を渡せ、第2王女を渡せなど‥だが国民を危険に晒すわけには行かず我慢を続けてきた。‥‥‥しかし!今度は同盟という方法で我が国に入り込み、国の全てを搾取しようとしている!これを許してしまうと国民すら危険に晒される事になってしまうだろう!よって我が国は‥‥神聖国に対し宣戦布告する!」
壇上で声を上げている男の後ろに10人程度の男女がいる。
体型で男女とわかるが、フードを被り顔まではわからない。
男があげている弁にさほど興味を持つ者はおらず、思い思いの様子であった。
「不安に思う者達もいるだろう。我が騎士団であれば神聖国の騎士など取るに足らん存在だ。だが思わぬ横槍があるやもしれぬ。前回の遠征時もそうであった。だが今回は宣戦布告する事で、我が国の正当性を表明して戦いを挑む!それに‥‥」
男はそこまで言った後に、後方を振り向く。
「今回は援軍を呼んである!」
男がそう言うと、後ろにいる男女が被っているフードを外す。
その顔が国民の前に晒された。
年齢や性別、体型などは思い思いだが、1つの共通点があった。
全員の眼が真っ赤に染まっている。
忌み嫌われる種族的特徴である真っ赤な眼。
その全員が魔族であった‥
人々からは悲鳴が上がる。
すでに逃げ出す者も出ている。
「静まれ!」
50代くらいの神経質そうな男から出たとは思えないほどの大きな声に、人々が動きを止める。
「案ずるな。この者達は魔族であるが、我が国に害する者達ではない。魔族の大陸にある国で、我が国と交流を望んでいる国から派遣された者達だ。知っての通り、魔族は多種族よりも遥かに優れた存在だ。だが今までの魔王のせいで他国とまともに交流すら行えない状況にある。戦力はあるが食糧や物質が不足している。我が国は彼らの国に物資を提供する代わりに最強の戦力を借り受ける事ができた!彼らがいれば神聖国など恐るるに足らん!今まで我が国を押さえつけていた国を排除して、最強の帝国を取り戻すのだ!」
すると突然国民から声が上がった。
「そりゃ凄い!魔族と共に戦えるのであれば、この国に敵う国などない!最強帝国の復活だ!」
その声を聞き周りの人達が歓声を上げる。
「確かにそうだ!ああやって皇帝の後ろに立っているって事は、我が国と共に戦うって事だろ?皇帝は魔族を従えた!強い帝国が戻ってきたんだ!」
国民から歓声が上がる。
大歓声が上がるなか、最初に声を上げた者はいつの間にか姿を消していた‥
この時、この瞬間にライノズ帝国は皇帝ムニティスの名の下、魔族を受け入れて戦う事を表明した。
俺は神聖国に転移して、『影法師』のイコルに意識を移してグルンデルさんの元に向かった。
グルンデルさんは帝国に攻められるとわかっていたのに、準備をする様子はなかった。
神の御加護が守ってくれますから。
そう言いながら帝国と戦う事を躊躇しているようだった。
確かに聖職者であるグルンデルさんは、他国と戦争する事を望まないだろう。
でも帝国はそんなグルンデルさんの思いなど一蹴して攻めてくるはずだ。
新しく生まれ変わろうと努力している国を瓦礫と化すために‥
そんな事をさせるわけにはいかない。
俺がどれくらい助力できるのかわからないけど、帝国の好きにはさせたくない。
また『アウローラ』のみんなの力を借りる事になるが、今回は俺も戦うつもりだ。
帝国もその背後にいる魔王も後悔するがいい。
我がマルコイ印の魔道具たちで全力で抗ってみせるぜ。
その魔道具の力をその目に焼き付けて、国に逃げ帰るがいい。
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