第612話

「わかりました。彼らに話をしてきます。期間は1か月くらいとの事でしたが、それまでに準備してもらうようにしますので。」


「本当ですか!それはとても助かります。イコル君が動いてくれれば、これ程心強いことはありません。」


うん。

動くのは主にクワイスさんです。


そして影で涙目になるのもクワイスさんです。


「それでは期日も余りありませんので、早速行動させてもらいます。また一月後に。」


「ありがとうございます。イコル君。君にタルタル神様の御加護がありますように。」


思わず顔が歪んでしまう。

タルタル神様の御加護か‥


俺の力で守り切れるといいけどな。






俺は宿に戻り、スキル【アバター】を解除して、マルコイに戻り『影法師』を『スペース』に入れる。


とりあえず獣人国に戻って仲間に説明をする前に、一旦『アウローラ』の拠点に寄って事情を説明する事にした。


転移で『アウローラ』の近くにある秘密基地に移動する。


秘密基地には時間を見つけてはちょこちょこ作っていた魔道具が散乱している。


数は十二分にあるが、何があるかわからない戦いだ。


もっと作成する必要があるだろう‥


神聖国の未来のために、もっと楽し‥魔族と戦える魔道具が必要になってくる。


作った魔道具がすぐに実験できるなんてなんて素晴らし‥


作った魔道具で何としても神聖国を救うのだ。



俺はにやける口元を戻しながら、『アウローラ』の拠点に駆け出した。






「たのもーっ!」


俺はいつものように『アウローラ』の入り口で声をかける。


するといつものようにラケッツ君が出て‥


「『アウローラ』へようこそ。今日は一体どのようなご用件でしょうか?あっ!マルコイさんじゃないですか!」


一瞬違うとこに来たかと思った。


「ラケッツさん?どうしたんですか、そんな対応ラケッツさんらしくなくて気持ち悪いですよ。」


「ひどっ!あれだけ酷い目にあったらこうなりますよ!」


ん?

酷いこと?

ラケッツ君何か酷い目にあったっけ?


俺が考えているとラケッツが信じられないものを見る目を向けてきた。


「ま、まさかマルコイさんはあれが酷いことって思ってないのか‥?ある意味スゲー‥やっぱり普通じゃない‥」


君失礼だね。

本当に思い当たる事がないだけだよ。


「いえ、もういいです。思い出さないでください‥ところで団長に用事ですか?」


「ああそうなんだ。クワイスはいる?」


「はい。団長室にいると思うのでどうぞ。」


もう案内もしてくれないのね。


勝手知ったる『アウローラ』のお家事情。




俺は団長室につき、扉をノックした。


「ラケッツか?開いてるぞ。」


俺が中に入るとクワイスは机で書類仕事をしていた。


「ラケッツ、今日はなんだか朝から寒気がするんだ。悪いが倉庫からポーションを持ってきてもらっ‥」


顔を上げたクワイスと目が合う。


するとクワイスは何故か合点がいったような顔になる。


「なるほど‥朝からの寒気の原因がやっとわかった。第六感ってやつだったんだな‥」


「どうした?病気でもしてるのか?キリーエからもらったいいポーションがあるから、あげようか?」


「いや、大丈夫だよ。病気でも何でもない事がわかったからね。今日は一体どんなトンデモ相談を持ってきたんだい、マルコイさん。」


君も随分と失礼な人だね。


話を聞く前にトンデモ案件と認定するのはダメだよ。


先入観で物事を決めていたら後悔する事になるんだからな。


「クワイス、最近の神聖国と帝国の事情って知ってるか?」


「ん?ああ、神聖国の聖王が変わって、今までの事を陳謝してこれからは仲良くしていきましょうってなってるんだろ?」


やっぱり普通にはそう伝わってるのか‥


「それが間違いでさ。帝国が神聖国に攻めてきそうなんだよ。だから帝国をクワイスたちにぶっ飛ばしてもらおうと思ってさ。」


「は‥?」

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