第611話

こっそりと忍び込み、息を潜める。


まあ人形なんで潜める息もないのだが‥


ただ耳を澄ませば木が擦れるような音はするんだけどね。



聖王様の部屋の天井裏に忍び込む。


中ではグルンデルさんと誰かが話しているようだな。


「‥‥では帝国の準備はほぼ完了しているという事ですね。」


「はい。しかし私の母国である帝国の戦力はさほど多くありません。今のタルタル神様の御使様から借り受けている魔道具があれば、神聖国の騎士団とぶつかったとしても勝つ事は至難の技と思われます‥」


「なるほど。ですが貴方は浮かない顔をしています。何か気になる事がお有りになるんですね。」


「はい‥実は帝国の将軍で、勝てる見込みがない戦いをやめるべきと進言した方がいらっしゃいました。しかし皇帝は彼を処刑した後に、必ず勝てる戦であると。反対する者がいれば同じような目に合うと帝国兵に伝えたのです。」


「必ず勝てる‥?」


「はい。虚言ではなく、自信に満ちた言葉でした。おそらく帝国兵以外になんらかの戦力があるのではないかと思います。」


「他の戦力ですか‥何か思い当たる節はありますか?」


「いえ‥私どもには伝えられていません。しかし皇帝が演説した時に、皇帝と同じような表情をしている人が数人いました。皇帝が連れて来られた人達です。皆顔半分を隠すような仮面をつけていましたが、口元が歪むように笑っていました。」


顔半分隠してはいるけど、もう自分たちの事を隠す気もなさそうだな。


魔王が復活して、各国がこれだけ警戒している中で目を仮面で隠しただけで出てきてるのだ。


いよいよ魔王さんが本腰を上げてきたってところかな。


「そうですか‥本格的に侵攻して来るのに後どれくらいの時間がありそうですか?」


「はい‥おそらく一月ほどかと。」


「そうですか‥」


沈黙が部屋を満たす‥



「大丈夫です。神聖国には神の御加護があります。それに少し前にとても心強い味方が顔を出してくれましたから。彼が言っていた神の御加護を持つ神兵の方達が力を貸してくれれば戦況は変わるはずです。」


「彼‥とは?」


「彼はこの国を救ってくれた少年ですよ。彼は腐敗したこの国を変えてくれました。彼がこの戦いに助力してくれるのであればきっと乗り越えられるはずです。これはこの国が宗教国家タルタルとして生まれ変わるための試練なのです!」




「なんじゃそれっ!」




「むっ!誰だ!」


あ、やべ。

思わず叫んでしまった。


最後まで忍べませんでした。

だってグルンデルさんが変な事言うんだもん。


忍耐力が足りなかったな。


いや、でもあの状況であんな国名言われたら誰でもツッコむと思う‥



「誰だ!どこにいる!」


「まあ待ちなさい。イコル君ですよね?声でわかりましたよ。挨拶に来られたんですか?少し顔を見せてもらってもいいでしょうか?」


猫の鳴き声とかしたら、騙せないかなとも思ったけどバレてるならしょうがないな‥



でもどうやって降りよう‥


天井に穴開けても怒らないよね?


『スペース』から剣を取り出して、天井の一部をキコキコと切り取る。


空いた穴から下に降りて着地する。


目線を上げるとグルンデルさんと、グルンデルさんを庇うように知らない人が立っていた。



この人がタルタル漬けにされて信者になった諜報員の人みたいだな。


「イコル君。できれば来る時は入り口から入ってきて欲しいところですね。」


「すみません。帰る前に挨拶をと思ったのですが、立ち入った話をされていたようだったので。」


「だから天井から盗み聞きしたと‥?」


うん。

言い訳のしようがございません。


「はははは。」


必殺の笑って誤魔化せ‥だ。


「まあイコル君には今聞かなかったとしても、こちらからお伝えしたいとは思っていましたからね。」


それじゃあ盗み聞きの件はなかったと言うことに。


「イコル君‥先程言っていた手伝っていただける方達の話ですが‥是非お願いしてもよろしいでしょうか?」


うん、そうですよね。


クワイスさん‥


出番ですよ!

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