第610話

樽いっぱいのタルタルソースを女神像に置いたら、女神像が淡く‥高速で点滅した。


俺じゃなきゃ、見逃してしまう速さの点滅だ。


「女神様でいいんだよな?」


俺が問いかけると女神像が返事をする様に点滅する。


なんだそれ‥


「タルタルソース食べたかったのか?」


また点滅する。


でもこれじゃあ点滅してるだけで、よくわからない。


「この神殿壊した事怒ってたりするのか?」


すると今度は女神像が光らなかった。


おお‥


はい、いいえと捉えていいのだろうか‥


「えっと‥俺が何かしなくちゃいけない事とかあったりするわけですか?」


おお、光っとる光っとる。


「それは俺じゃないとダメなんですかね?正人とかでもよかったりします?」


すると女神像はまた発光した。


「ぐわっ!」


く、くそ‥


味をしめやがったなコイツ‥


油断したらすぐ光りやがる‥


「わかりましたよ。とりあえず今すぐじゃないんですよね?その時が来たら出来る範囲で頑張りますよ。」


女神像が淡く光る。


「それじゃあ帰りま‥ぐっ!」


また光った。

何なのコイツ全く。


神の威厳とか全くないぞ。


ただの光る我儘石像だ。


「タルタルソースの事ですよね。食べたかったんですよね。俺の魔力を込めた魔道具を置いていくので、たまに転移で来て御供物しますよ。それでいいですか?」


女神像が今度は‥

カラフルに光った‥


そ、そんな機能もあるんだね‥



「そろそろ帰ります。でもまた来ますから。今度来る時はもう少し役目の事について詳しく聞かせて下さいね。」


するとまた女神像が淡く光る。

なんだか落ち着く光だな。


しかし変な神様もいたもんだ。


そりゃそうか。

噂のタルタル神様も実際はただの人だし。

みんなが崇める女神様もこの世界で流行ってる食べ物に興味持ったりする神様だったりしても不思議じゃないわな。


「それじゃあまた。」


俺は振り向いて出口に向かう。

後ろでチカチカしている光が気になるけど、振り向かないでおこう。

長くなりそうだから‥




てかこれって神託みたいな扱いになるのかな?







ようやく出口に戻ってきた。


神殿に入る時に手紙を見せた衛兵さんが駆け寄ってくる。


何か焦った顔をしてるな。

なんだろう?


「よかった、ご無事でしたか!」


「え?どうかされましたか?」


「いえ、先程から聖地の中で不規則に光が漏れ出していましたから。中で何かあったのかと思いまして。」


おい‥

女神様、光が外にダダ漏れしてるじゃないか!


「いや、それはですね‥あ!多分中が暗かったから光を放つ魔道具を使ったからですよ!」


「そうなんですか?途中で光の色が変わったりして、今までなかった事だったので‥」


あ、あの女神様め‥


変にバリエーション豊かな所が問題になってやがるじゃないか‥


「そ、そうなんですか?多分中で反射して色が変わったんでしょうね。あははは‥」


今度タルタルソース持ってくる時は、タルタルに辛いの混ぜちゃる。


「と、とにかく何も問題はありませんでしたよ。聖王様に報告する事があるので、これで失礼させてもらいますね。」


そう言って俺は逃げるように衛兵さんの前から走り去った。




今度から女神像の所に行く時は、暗幕を持って行く事を心に誓って‥




早く帰って何を作ろうかとワクワクしていたが、聖王様から帰る前に寄るようにと釘を刺されているので、とりあえず一旦神殿に行く事にした。


タルタル神殿から他の所に行くと言っていたが、行く先がわからないので、イルケルさんに聞いてみよう。


タルタル神殿に着くとイルケルさんが背筋を伸ばして門番業務を頑張っていた。


ん?

何やら慌ただしい様子だな。


嫌な予感がたくさんするんですけど‥



今までの俺だったらここで踵を返す所だが、女神様の件もあるからな。

前向きに行くべきだろう。



俺はこっそりと盗み聞きするために神殿に忍び込んだ。

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