第607話

タルタル神様に愛されていると思われているタルタル神様ことマルコイは、イコルの姿でタルタル神殿の出入り口に向かっていた。


「イコル‥君。戻ってきたのか。一体どんな話をしてきたんだい?聖王様と2人で話をするなんて、騎士団の団長みたいな人くらいなんだが‥」


「いえ、特に自分の村であったことの報告くらいですよ。少し聖王様とも関係がある事だったので、報告だけと思ってお会いさせてもらっただけです。」


「そうなんだな‥」


イルケルさんは残念そうな表情を浮かべている。

あれ?

この人もしかしてまだ隊長とか狙ってたりするのかな‥?

俺が聖王と仲がいいってわかったら自分の評価を上げてもらおうとか思ってたんじゃないだろうか‥?


「あ、イルケルさんの話も少しされてましたよ。御使様のところから魔道具を盗むなんて大罪を犯したけれど、今は頑張って門番をされている。できればこのまま門番として業務に励み、一生かけて罪を償って欲しいって言ってました。」


イルケルさんの顔から正気がなくなる。


「そ、そ、そうか!お、俺はこの門番って仕事に生き甲斐を感じてるんだ!これからもずっと生涯門番として頑張るつもりだ!よかった、聖王様も俺を門番として使っていただけるみたいで!」


そうそう。

もう変な事考えちゃダメだぞ。


がんばれイルケルさん。





俺はタルタル神殿から大神殿跡地に戻ってきた。


最初にグルンデルさんの場所を教えてくれた衛兵さんがいたのでグルンデルさんからの手紙を渡す。


「すみません。この手紙を読んでもらっていいですか?」


「ん?構わないが‥なっ!聖王様からの手紙?すみません、少しお待ちいただいてもよろしいですか?」


「ええ、大丈夫です。確認なさってください。」


しばらくグルンデルさんからの手紙を確認する衛兵さん。


「確認させてもらいました。聖王様からの手紙で間違いありません。どうぞ、中にお入りください。ただ中は大変崩れやすくなっていますので、何かあればすぐにお呼びください。」


「はい。ありがとうございます。それでは失礼します。」




俺は大神殿だった物の中に足を踏み入れた。


外から見た事はあったけど、中に入るのは初めてだな。


生き埋めになっても俺はまったく問題はないが、グルンデルさんに怒られそうなので慎重に進んでいく。


崩壊した柱などが、微妙なバランスで人がちょうど1人通れそうなくらいの道を作っている。


ゆっくりと進んで行くと、中には女神ウルスエートを讃える壁画や、皆が祈りを捧げていた礼拝堂の椅子なんかが散乱しているのが見えてくる。


こんな光景を見ると、本当にウルスエートを想って祈りを捧げていた人たちに悪い事をしたと思ってしまうな。


歴史ある場所だったと思うし‥



しばらく進んでいると、急に開けた場所に出る。


そこは女神ウルスエートの像が立っている場所だった。

さすが女神様。

これだけ建物が崩壊しているのに、ここだけは綺麗にしている。


まるでここだけは穢れていないって言いたいみたいだ。




俺は女神像に近寄る。


「女神様。スキル【模倣】を授けてくださってありがとうございます。」


女神像は静かに佇んでいる。


「スキル【模倣】のおかげで沢山の仲間にも恵まれました。それに強さも。でも1つだけ聞きたい。貴方は俺に何かをやらせたいのか?」


女神像は問いかける前と変わらず、静かにただ佇んでいる‥


「ふっ、女神像に尋ねたところで答えが帰ってくるはずがないよな‥何故か答えが返ってくる気がして聞いてしまったよ。」


すると俺が見ている前で、女神像の眼から水が流れた。


泣いているのか?




その時不意に気づいた。

気づいてしまった。


やっぱり女神様は俺に何かをさせたいんだな。

それが何かまでは教えてくれないのか、それとも今は伝えられないのか‥


どちらにしろ女神様の想いがあるわけか‥



え〜‥

聞かなきゃよかったよ‥

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