第604話

イルケルさんが扉を開け、中に入るように促してくれる。


俺は頭を軽く下げ、部屋の中に入る。


「イルケルさん。外で待っててもらって結構ですよ。」


「しかし‥」


「君もイコル君とは知り合いなんでしょう?だったら彼の人となりはわかるはずです。構いませんから、彼と2人で話をさせてください。」


「わかりました。」


そう言ってイルケルさんは部屋の外に出て行く。



イルケルさんが部屋を出たのを確かめて、グルンデルさんは椅子から立ち上がる。


「救国の英雄であるイコル君。また会えてとても嬉しいよ。またこうやって君に会えるなんて思ってもいなかったからね。」


グルンデルさんは握手を求めてきた。


最初に会った時は、複数の剣を向けられたものだが‥


でもこの人にこの国をお願いしてよかったと思う。


住んでる人たちの顔を見た時にそう思った。


「今日来たのは、少し聞きたい事とお願いがあってきました。」


「そうですか。君の願いなら、私のできる範囲なら何でもしよう。ただ‥私からも少しだけ聞きたい事があるのだが‥」


聞きたい事?


「もし言いたくなかったら言わなくてもいいんだが、君は何故、御使様がこの国にいらっしゃるのがわかったんですか?」


御使様?


‥‥‥‥!


あ、ドラゴンの事か?

ん〜、なんて答えよう‥?


「言いたくないわけじゃないんですけど、俺の住んでいる近くにあのドラゴンはいました。今は住処を変えたみたいでいなくなりましたけど。」


ドラゴンがいたのは嘘ではない。

住処は変えてないっぽいけど。


多分俺を待ってそうな気がするんだよね。


まあそれはいいんだけど。


「あのドラゴンは普段はほとんど動かなくて。村の人は近寄るなと言っていたんですが、好奇心で近寄ってしまったんです。そしたらドラゴンが呟いているのを聞いてしまったんです。神を崇める国に神を穢された。罰を与えなければいけないと。」


「なるほど。それが神を崇める国、神聖国だと思ったんですね。」


「はい。それで顔見知りの正人さんたちを助けるために、神聖国に来たんです。」


グルンデルさんは了承したように大きく頷く。


よかった、かなり無茶苦茶だけど信じてくれたみたいだ。


「わかりました。イコル君、君の話を信じる事にします。いろいろと気になる所はありますが、それは話せないという事なんでしょう?それに他言するつもりもありません。名誉が欲しいのであれば、私が聖王に即位したらすぐに会いに来てくれた筈ですしね。」


おおう!

何かいろいろと勘づかれてました。


おかしいな、上手く話作れたと思ったのに。



「はは。こう見えても元々枢機卿として信者の話をたくさん聞いてきたんですよ。でもイコル君は少しわかりづらいですね。他の人は息継ぎのタイミングだったり、その人の持つ熱量でわかったりするんですけどね。でもイコル君はそれがとてもわかりづらい。」


そりゃそうだ。

だって人形だもの。

逆に人形の俺の嘘を見抜けるグルンデルさんの方が凄いな。



「それじゃあ私の聞きたい事は以上です。それではイコル君のお願いを聞かせてもらってもいいですか?」


「俺は2つあって、1つめは現在の神聖国と帝国の関係です。正確には帝国が何を企んでるのかわかってますか?」


表面上は関係修復したように見せかけてるけど、魔族と組んでるような国だからな。

何かろくでもない事を考えてるに決まってる。


「そうですね‥残念な事に帝国は神聖国への侵攻を諦めていないようです。」


「やっぱりそうですか‥でも帝国は情報規制をしているようですが、どうやってその情報を?」


「帝国の諜報員であった方が1人改宗してくれました。その方から教えていただきました。」

 

諜報員が改宗?


「実は御使様からお借りしている魔道具の中に、侵入者を察知する魔道具があります。その魔道具を使い諜報員の方を捉えました。」


ん?

そんな魔道具作ったかな‥?


た、多分無心で大量の魔道具を作ってた時に、そこまで見越して作ってたんだろう‥

俺って凄い‥?

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