第603話

信者の人たちの前に一体の人形が運び込まれた。



あれは俺がセイルズにいる時に余興でやった料理大会で、優勝したペイセルさんに商品として渡した人形だ。


確かにペイセルさんにタルタル神様の御神体を作ってくれと言われて作った物ではある。


しかし何故それが、遠く離れた神聖国にあるのだろう‥


ペイセルさんとグルンデルさんに繋がりがあるって事か‥?


まあペイセルさんはセイルズでタルタル教の神官をする前は布教で各国を旅していたって話だったから、どこかで会っていても不思議じゃないんだけど‥


すると周りにいる信者の人たちが一斉に頭を下げてお祈りを始めた。


1人だけ頭を下げないのも変なので、頭を下げる。

しかし自分が作った人形に頭を下げる事になるとは‥


しばらくお祈りしていると人形が下げられた。

出てきた時と同じように、豪華な台座に乗ってからの退場だ。


そんな豪華な台座に乗せられるとは、作った時は思いもしなかったです‥


その後しばらくグルンデルさんのありがたいお話があり、1時間程して祭事は終了した。




できればグルンデルさんと会えたらと思い、神殿に近づく。


「むっ、ここから先は関係者以外は立ち入り禁止となっています。お引き返しください。」


まあそうなるよね。

でもここで諦めるわけに‥


あれ?


この人どこかで見た事があるような‥


「む?お前はイコル‥イコル‥君じゃないか。ひ、久しぶりですね‥」


えっと‥


あっ!


確か正人たちと神聖国に戻る時に、国に戻ったら隊長になるって言ってた小悪党のイルケルさんじゃないか。


前聖王に罪をなすりつけられてたけど、どさくさに紛れて逃げられたんだな。

でも隊長じゃなくて、神殿の門番になりましたか‥


まあ妥当というか、よかったんだろう。

普通ならあのドラゴンを呼び寄せた原因って事になってるから、打首になると思うし。


命がある上に、仕事までもらえてるんだから運がよかったんだな。


「イルケル隊長!お久しぶりです。前回お会いした時に家を訪ねるように言っていただいたのに、お訪ねすることが出来ずに申し訳ありませんでした。」


ふっふっふ‥


心が抉られるようだろう。

反省はしているのかもしれないけど、船旅の時に俺を部屋に入れてくれなかった罪はデカいのだ。


「い、いや、気にしなくていいぞ‥ですよ。あれから色々あって隊長にはなれなかったからな‥ですね。」


うむ。

明らかに落ち込んでいる。

イジメるのもほどほどにしてやるか。


「あの後急に国に戻らないといけない用事があったもので。ところでイルケル隊長にお願いなんですが、聖王様に取り次いでもらってもいいでしょうか?いや‥無理に取り次いでもらわなくてもいいんですけど、一言『イコルが会いに来た』とだけ聖王様に伝えてもらってもいいですか?」


グルンデルさんが覚えてなかったらイルケルさんが可哀想だからな。


覚えてたら多分会ってくれるだろ。


「お前が‥君が来たことだけ伝えればいいのか?だったら構わないが‥わかった、あまり期待せずに待っていてくれ。」


そう言いながら、イルケルさんは中に入って行った。


助かった。

イルケルさんじゃなかったら、怪しんで伝えてもらう事も難しかったかもしれなかったからな。


しばらく待つとイルケルさんが戻ってきた。

その顔には不思議そうな表情を浮かべている。


よかった。

グルンデルさんは覚えていてくれたみたいだな。


「イコル君。一体どんな魔法を使ったんだ?聖王様が君にお会いするそうだ。」


ありがたい。

グルンデルさんが覚えてなかったら、大神殿跡に夜中こっそり忍び込まないといけないところだった。





イルケルさんに案内されて、神殿内を歩く。

神殿の所々に玉ねぎやら卵を混ぜている壁画がある。


そうか‥

本当にタルタルソースの神殿なんだな‥

いいのかこれで‥?




少し豪華な扉の前でイルケルさんが止まる。


「聖王様。イコルさんをお連れしました。」


「入ってください。」


中からグルンデルさんの声が聞こえた。

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