第602話
適当な宿をとり、部屋に入る。
一週間ほど部屋を借りたので、誰も入ってくる事はないだろうけど、念のために防犯木偶人形を設置する。
勝手に人が入ってきたら出てもらい、俺に信号を送る魔道具だ。
侵入者を撃退するような木偶人形を置いていてもいいのだが、宿の人が入ってきたら大事になるので止めておく。
『スペース』から【影法師】のイコルを取り出して、ベッドの側に立たせる。
横になった状態でスキル【アバター】を発動させて、イコルに意識を移す。
よし。
しばらくほったらかしにしてたけど、少し動きにくいくらいで大きな問題ないようだな。
腕はもげていたから新しい腕と付け替える。
よし、準備は整った。
扉から出ると宿の人に見られるので、窓から外に出る。
窓は隣の建物に面しているので、人に見られる事もない。
宿としては景色が見れないので減点なんだろうけど、今の泥棒のような動きをしている俺からすると加点です。
今回神聖国に来たのは、【影法師】の回収と、隣国の帝国偵察。
それと勇者召喚の魔道具の件だ。
街の様子は少し変わっていたが、大神殿はどうなっているだろう。
あの大神殿の地下に勇者を召喚する魔道具があったが、ドラゴンのブレスで大神殿ごと壊したので、悪用されるような事はないと思うけど、できれば回収したいと思っている。
もちろん勇者を元の世界に戻す糸口になればと思っているだけだ。
決して知的好奇心から回収するのではない‥
ただあれだけの大きな魔道具だから、魔力回路もたくさんついてるんだろうなぁとか思っていない。
大神殿のあった場所に着いた。
大神殿は、俺が壊したままの姿だった。
破壊された大神殿の周りには柵がしてあり、そこには『聖地なり。何人も立ち入るべからず。』と書いた立札が立っていた。
聖地?
元々大神殿があった場所だから、聖地跡とかならわかるけど、何故聖地?
周りを衛兵さんが見張っているので、勝手に中に入るのは難しいそうだな。
衛兵さんの1人に声をかける。
「すみません、ちょっとお聞きしたいんですけど、聖王様はどちらにいらっしゃるんでしょうか?」
前の聖王は大神殿にいたけど、グルンデルさんがどこにいるか聞いてなかったからな。
「聖王様ですか?聖王様は今の時間だとタルタル神殿でお祈りをされているはずです。でもあと1時間もすれば女神様の神殿に移動されるはずです。」
「そうなんですか。ありがとうございます。田舎から出てきたんですが、一目聖王様のご尊顔を拝する事ができればと思いまして。」
「なるほど。いい心がけです。聖王様はいかなる神を崇めていようとも、その信仰心を大事にされる方です。是非とも帰られる前に拝見されてください。」
できれば拝見じゃなくて、お会いできたらいいんだけど。
さすがに俺の事覚えてるよね‥
でもイコルの姿でも一回しか会った事がないしな‥
二回目はドラゴンだったし。
ちょっと不安になってきたかも。
衛兵さんにタルタル神殿の場所を教えてもらったので、とりあえず向かってみることにした。
もうね、神殿の名前がタルタルくらいじゃ驚きませんよ。
神殿に近づくと人が多くなってきた。
グルンデルさんを見ようとみんな集まってるようだ。
神殿が見える場所に着くと、ちょうどグルンデルさんが神殿から出てくるところだった。
少し手を上げて信者に挨拶をするグルンデルさん。
そして少し高い台に立ったグルンデルさんは、信者の人たちに向かって語り出した。
「信者の皆様。皆様はこの世に生を受けて、今まで生きてこられた中で神を感じられた事はありますか?私はあります。女神ウルスエート様の御心を感じた事があります。そしてタルタル神様の想いを感じた事があります。今日は私が尊ぶタルタル神様の御神体を、月に一度皆様の前に奉還する日です。是非そのご尊顔を拝されて下さい。」
グルンデルさんの後ろから見覚えのある物が丁重に運ばれてきた。
なんであれがここにあるんだよ‥
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