第599話

イザベラさんは俺との距離が近くなってきたのにも関わらず、スピードを落とさない。


最悪の事態しか頭に浮かんでこない。


俺はスキル【予測変換】を使い、イザベラさんの動きを予測する。


そしてフェイントを入れてイザベラさんの突進を躱す。


危なかった、【予測変換】がなければ喰らっていたかもしれない。


後ろで何かが壁にぶつかる凄まじい音がしたが、気にしない。


後ろをゆっくりと振り返るとギルドの壁に人型の穴が空いていた。


その穴の奥から、ウサ耳と筋肉が出てきた。


いや、イザベラさんだった。


「んもぅ!マルコイちゃんのイケズッ!」


この人は俺を殺す気だったんじゃないだろうか‥

避けなかったら、あの威力のタックルを喰らう羽目になったんだが‥


「お久しぶりですイザベラさん。お変わりないみたいですね。」


「あらん!変わらない美しさってことね!ありがとう!」


そのポジティブを見習いたい。


「よかったわ、元気そうなマルコイちゃんを見れて。でも今日は1人なのね?」


「そうですね、1人で来てます。みんな挨拶に来ればよかったんですけど‥」


「あら?みんな来たわよ。新しい仲間のリルちゃんって子もアキーエちゃんが連れてきてくれたわよ。とっても可愛い娘だったわ!私の娘に欲しいくらい!その前に旦那も欲しいけどね!」


なん‥だと?

俺が来る前にみんな来てたんですか‥?

俺だけが知らなかった新事実。

そりゃみんな来ませんですね。


「そ、そうなんだ。でもよかったよ元気そうで。」


「そうね、元気は元気なんだけど、最近は各国で問題が色々起きてるから忙しくて忙しくて‥睡眠不足でお肌が荒れてきちゃったわよ。」


「お肌はもともとガサガ‥いや、何でもない。そんなにいろんなところで問題が起こってるのか?」


めっちゃ目つきが怖かった‥


「そうね、ここじゃあれだから、応接室に来ない?」


「え?イザベラさんと密室で2人はちょっと‥」


「いやだっ!何にもしないわよぉ!でもマルコイちゃんとしばらく見ない間にまた男前になったわね。じゅるり‥」


いやだ。

絶対に応接室に行ってはいけないと、大警鐘が頭の中で鳴り響いている。


「そうね、それじゃあ2人で聞いてもいいかしら、イザベラさん。」


すると後ろから天使の声が聞こえた。

振り返ると、そこには天使が‥いや、アキーエが立っていた。


「アキーエッ!よかった助かった!ありがとうありがとう‥アキーエは天使だ。」


俺はアキーエに抱きついて感謝を述べる。


「な、なんなのよ急に。もうマルコイったら。」


アキーエに抱きついたのは久しぶりな気がする‥


くんかくんか。




その時によぎった死の予感。

そうだった、俺が抱きついたのは天使じゃなくて、爆殺女神だった‥


『スペース』から身代わり人形君を取り出して、身体の前に立たせる。


こんな事もあろうかと、単純に硬度をとことん上げた木偶人形、『身代わり木偶太郎君』を作っていたのだ。


何かあった時に自分の代わりに被弾させるように作っていたのだが、ここで使わなければいつ使うのだ。


だが一瞬にして破壊される身代わり木偶太郎君。


粉々になった木偶太郎君の奥から迫ってくる拳‥


【予測変換】を使い動きを予測する。


腹部に迫る拳を紙一重で避け切ったと思ったが、脇腹に擦ってしまう。


その威力で俺の身体は独楽の様にその場で回ってしまう。



「もう!マルコイったら!」


語尾にハートマークがつきそうな言い方であるが、直撃したら大ダメージだった‥


独楽の様な回転から、自分を取り戻した後にイザベラさんから言葉を投げかけられた。


「もう、あんた達は‥ギルド内でイチャイチャしないのよ!」


「もう!マルコイのせいだからね!」


「それじゃあ2人とも応接室に行くわよ。」


「はい。もう‥マルコイ、部屋に行くわよ。」


そう言ってイザベラについて行く爆殺女神を見ながら、初めてアキーエの攻撃力を軽減させる魔道具を作る事を心に誓ったのだった‥

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