第573話

とりあえず聞きたい事と言いたかった事は全て伝えたので、酒場を後にする事にした。


「おっさん今日はありがとうな。やっぱおっさんと飲むのは楽しいわ。」


「そりゃありがとな。またしばらく会えないだろうからな。」


そう言うとおっさんは少し寂しそうな顔をした。


「は?何言ってんだおっさん。俺は転移でいつでも来れるから、また飲みに行くぞ。」


そう言っておっさんの方を見ると、おっさんが固まってる。


よく固まる奴だな。


何か変なもんでも食べてるんじゃないだろうか‥?


友人として少し心配してしまうよ。


口が開いてるので、何か入れようと思ったが、手近にいいものがない。

虫でも探すかな‥


「て、て、転移ってなに?もしかして一瞬で移動できたりするスキル【転移】か?」


あ、動き出した。


「ん?スキル【転移】ってのがあるのか?俺のはスキル【時空魔法】の魔法でだけど、【転移】ってスキルもあるのか?」


「ああ。今はスキル【転移】を持ってる人はいないようだが、少し前にはいたぞ。それこそさっき話した帝国にいたんだ。帝国がまだ強国だった頃の話だが、帝国兵の大軍を一瞬で侵攻国の目の前まで運ぶ事ができるようなとんでもないスキルだったそうだ。そのスキル【転移】を持っていた人が亡くなってから、帝国は衰退していったそうだけどな。」


なるほど。

俺の【時空魔法】の転移とは違うようだな。


俺の転移は1人しか移動できないし、転移先に俺の魔力を持った何かを置いておく必要があるからな。


「俺のスキルは俺しか転移できないからな。でもスキルレベルが上がれば2人とか転移できるようになるかもしれないけど。その時はイザベラさんでも連れて来てやるよ。」


「お、お前‥そんなすごいスキルを俺のために‥お前ってやつは‥」


そうかそうか。

そんなに嬉しいか。

何としてもイザベラさんを連れてきてやらないとな。


もし転移が無理なら、またドラゴンにスキル【アバター】で意識を移してでも連れてきてやるからな。


「そういう事だから、またすぐ来るよ。何か変わった事があったら、またその時に教えてくれ。」


「ああ。わかった。そ、そ、その時に、その‥イザベラさんの事もす、すこし教えてくれよ。」


「ああ!任せとけって!」


俺は満面の笑みで答えるのだった。







翌日の昼過ぎに王都を旅立つ事にした。


バーントのおっさんは仕事が抜けれないらしく、別のギルド職員から手紙だけ受け取った。


手紙には、獣人国に着いて落ち着いたら飲みに行こうみたいな事が書いてあった。

手紙の下の方にはイザベラさんに宜しくと書いてあった。

もちろんだとも。


ミミウさんは両手いっぱいにフライドポテトを持っていた。

もうすでにもぐもぐしている‥


それと何故か異世界のポテトチップスもどきも持っていた。

なんでも西方広場にあるフライドポテトのお店に、あやめとミミウが一緒に行ってあやめの発案で作ってみる事にしたらしい。


もちろん美味しかったので、ポテト屋さんに新しいメニューとして置く事になったようで、お礼としてたらふくもらったようだ。


あやめは食べ過ぎて胃もたれしたとかで、顔が死にかけている。


しかし初めて異世界で自分がやりたいと思った事が出来たらしく、本人としては満足らしい。


獣人国に着いたら、あやめや恵と一緒に料理を考えてみてもいいかもな。


そんな事を考えていると、横にキリーエがいた。


「マルコイさん。試作品作る時は呼んでや。」


うん。

キリーエの察知能力はスキルとして発現していると思う。

ギルドカードには記載されていないけど、きっと魂には紐づけられているはずだ‥





俺たちは王都を後にして、獣人国に向かった。


特にどこかに寄るつもりはなかったけど、キリーエが契約して、米を作ってもらっている村に寄りたいとの事で、そこに行く事にした。



そして今俺の目の前に、王都並みの城壁がある。


あれ?

こんな所にこんな大きな街があったっけ?

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