第574話

歩いて来た場所や距離などを考えると、ここには米を作っていた村があるばずなんだけど‥?


キリーエが率先して城門に近づく。


城壁の上から見回りの兵がキリーエを見下ろしている。


大丈夫なのか?


キリーエは城門前に立っている門番と話をしている。


すると突然門番が土下座するくらいの勢いでぺこぺこしだした。


そしてキリーエがこっちに来いと手招きしてきた。


俺たちは恐る恐る城門に近づく。


「キリエル村にようこそ!キリーエ様のご友人とお聞きしました。どうぞごゆっくりされて行ってください!」


「キリエル村?」


「はい!以前は名前もない村でしたが、キリーエ様のおかげで村が大きくなったのでキリーエ様の名前をいただき、キリエル村とさせていただきました。ですが、もう村でもない大きさになりましたがね。あははは。」


うん。

王都並みの城壁のある村なんて村じゃないよね。


「キ、キリーエ?どういう事?」


「ん?この村の事?そやね、米が売れるってわかってから、他の村も米を作るようになったんやけど、米の質は此処が最上なんよ。先に作り始めた事もあるし、うちが米の味については力入れてたさかいね。そやから他の村から米を盗み来るのが絶えなかったんよ。でも米はホット商会の主力やからね。盗まれない為にも村を囲う必要があったんよ。」


なるほど‥

でもかなり広範囲に壁があるだけど‥


「壁の外にも田畑はあるやけど、ホット商会に卸してもらう米は壁の中で作るってるんよ。そやから壁も広くなってしもてね。」


しかしこれだけの壁を作るとなると、途方もない時間とお金がかかると思うんだが‥


「ちょっと高くついたけど、沢山の職人さんを雇って短時間で作ったんよ。ホット商会の米を守るために多少高くても早めにやっとく必要があったさかいね。」


そうなんだ‥

相変わらずホット商会の財力が凄まじい事になってるよな‥


門番の人に促されて、門の中に入る。


中は米を作っているだけあって、のどかな風景だ。


でも外で見るような田園の雰囲気じゃないような‥


魔法使いっぽい人が沢山いる気がするんだけど‥


「ここは魔法でできる事は魔法で効率化してるんよ。そやから普通の田畑と少し違うよ。あと水なんかも魔法で作った水を混ぜてるんよ。色々と試したんやけど、その方が米の味に甘みが出て美味しかったさかい。」


へぇ。

凄いな‥

米が食べれるってわかってから、それ程時間は経ってないと思うけど、ただ食べれるってだけで満足せずに、さらに美味しくするための努力をする。

ホット商会は俺の発案じゃなくて、それを継続してより良い物にしていくキリーエがいるから、ここまで発展したんだと思うな。


「それと、ここはある意味うちの実験的な場所なんよ。マルコイさんから聞いて試してみようってなったやつは、ほとんどここでさせてもらってるさかいね。」


「ん?どういう事だ?俺何か言ったりしたっけ?」


「マルコイさんが時々言ってる異世界の話を元にして色々試してるんよ。例えば‥」


キリーエの視線の先を見てみる。


そこには大衆浴場があった‥


「なにあれ!なんで異世界に銭湯があるのよ!それに水道も引いてあるみたいよ!」


あやめが周りを見て興奮している。


確かに異世界にはこういうのがあるって事を時々キリーエには伝えてた気がするけど、俺自身ほとんど覚えてないのだが‥


それを1つ1つ形にしていったわけか‥


「まだ娯楽施設とかには手が回ってないのが現状やけどね。でももっとここを住みやすい場所にして、マルコイさんやうちらが、他の国に住みにくくなったらいつでも此処に来れるようにしてるんよ。」


キリーエはそんな事まで考えてたのか‥


確かに獣人国に住むつもりではいた。

獣王様は懐が広い人だから、リルの件なんかも了承してくれると思う。


でも周りの人が全部そうとは限らないからな。


キリーエの行動力に少し驚きながらも、その気遣いが嬉しく思えた。

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