第537話

それからの私はまるで生き返ったように精力的に動いた。


タルタルソースの作り方を学び、タルタル教の素晴らしさを伝え、タルタル料理を作り、新しいタルタル料理を考える、タルタルで乾杯して、タルタルに包まれて眠る。

そんな充実した毎日を送った。

流石に耳にタルタルが入った時は出てこなくて困ったが。


もちろん信頼できる者以外にタルタル教の事を話すわけにはいかなかったので、話したのは僅か数名であった。


話した者で、タルタル教に入らなかった者もいたが、皆が皆神聖国を憂いていた者達であったので、何かあった時には協力してくれる事となった。



そんな中、残念ながらペイセルさんはセイルズに行く事となった。

なんでもセイルズに出来るタルタル教の教会で司祭をされる事になったそうだ。


思わずついていきたい衝動に駆られたが、現在の神聖国を放っておく事はできないので、絶対に会いに行くと伝えて見送った。


私が充実した日々を送っていた反面、神聖国は日に日におかしくなっていった。


各国から運び込まれる魔道具、国内で消息不明になる信者‥


しかしついに転機が訪れた。

帝国が神聖国に魔道具を渡すのを拒否し、兵を上げたのだ。


それと同時に付近でモンスターの目撃情報が増えてきた。


帝国の侵攻と、モンスターの氾濫が同時に起こる可能性が出てきたのだ。


帝国やモンスターを退けるために聖王の周りに兵が少なくなる。


その時を狙って登城し、聖王と話をする。

場合によっては武力行使する。


失敗すれば命はないだろう。

それに成功したとしても神聖国を帝国とモンスターから護りきれるのかもわからない。



それでもこれ以上神聖国が腐敗していく様は見ていられない。

ただの無駄死にになるかもしれない。

私が死んだところで、聖王は気にも止めないだろう。

しかしこのまま見てはいられない。


そう思い決死の覚悟で望むつもりであったが、その思いは呆気なく崩れ去った。


モンスターの氾濫は起こらず、そして進軍してきた帝国は聖都間近で撤退したのだ。


まるで自分達を揶揄うかのように。


たが、思いは高まっている。

このまま行けば間違いなく失敗するのはわかっている。


しかし大神殿に乗り込み、タルタルを撒けばタルタルの素晴らしさで何か起こるかもしれない。


その僅かな可能性に賭けて乗り込む事にした。


そのための作戦を練るため、集合場所にしていた教会に集まっていた。


そして今後の事を話していると、誰も来るはずのない教会に突然人が来た。


私達がここで集まっている事に気づかれたのだろうか?


様子を見てみるが、どうやら私達がいると知ってきたようではないみたいだ。

しかし勘が鋭いようで、私達が隠れている事に気づいた。


侵入してきたのは人を1人抱えている少年だった。


そう。

この少年との出逢いで私は全てを決断した。


話を聞いていて害はないと思われた少年だったが、急に興味深い提案をしてきた。


私達が神聖国を変えるために城に乗り込むのを合図があってからにしてほしいと。


意味がわからなかったが、何故か少年に賭けてみたくなった。


どうせ失うであろう命だ。

ならば少しでも可能性が高い方に賭けてみたい。


それに何故か少年を信じたい気持ちになっている自分がいる。


彼とならタルタル教をもっと布教できる‥そんな気になる。

彼がタルタル教の素晴らしさを広めてくれるなら、ここで死んでも構わないとまで思ってしまった。




そして今日が彼と約束した日だ。


彼の言う合図とやらが何かはわからないが、きっと彼なら何かしてくれる。

そうまるで私を導いてくれたペイセルさんが言っていたタルタル神のような彼ならば。


私と数人の仲間は正装して城に向かう。


きっとこれから起こる事はこの国の未来を変えるものだ。


そして‥



空からドラゴンが飛んできた。


いや、合図があるって言ってたけどドラゴンはないんじゃないかなぁ‥

そう思いながら、城に駆け出した。

笑みを浮かべながら‥

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