第534話
グルンデルを取り囲もうとしていた騎士たちの動きが止まる。
俺と聖王を見比べている。
「な、何をしているか!えーい、そ、そのドラゴンも一緒に斬り捨ててしまえっ!は、はやく行かんかっ!騎士団長!何をしている!そのトカゲを倒すのだ!」
騎士団長は命令に従い、俺に向けて剣を抜く。
素晴らしい忠誠心だなと思う。
だが剣を持つ手が震えている。
目の前で副団長を潰されたのを見ているのだ。
こうやって向かい合っているだけで大したものだ。
「我に剣を向けるか小僧?ならばお前から潰してやろう。」
俺より歳上だと思うけど。
「せ、聖王様!お逃げください!私では足止めも叶いません。」
「な、何を言っておるか!早く其奴を倒すのだ!」
「騎士団長さんよ!ここは俺らに任せとけよ!」
声と共に、聖王の後ろから数名の男たちが出てきた。
思い思いの鎧を装着している。
騎士団のように白を基調とした鎧ではない。
しかし何処かで見た事があるような‥?
「おお!お主らか!その魔道具を装着したお主らなら奴を倒す事ができるはずだ!行け!行くのだ!」
あ!
思い出した。
俺がイルケルに持って行かせた魔道具だ。
そして俺が大神殿に運び入れたやつだな。
「ふはひひ。この魔道具は素晴らしいぜ!筋力や瞬発力を遥かに底上げしてくれる。この魔道具を装備してればドラゴンだろうが‥げぺっ!」
あほか。
俺が手抜きで作った魔道具だそ。
そんな物で俺と戦えるはずがないだろう。
出てきた数人の男は副団長と同じく地面の染みとなった。
あ、また手のひらにくっついてる。
汚いなぁもう。
俺は大神殿の壁に手を擦り付ける。
「ひ、ひぃ!」
地面を這いずりながら逃げようとする聖王。
「タルタル神を信仰する者よ。これよりこの神殿を破壊する。お主はこの場を去るがいい。」
「な!この大神殿をですか!しかしこの大神殿は女神を信仰する象徴でありますゆえ‥」
「そうだな。元々は女神ウルスエートを祀っていたのだろう。しかし今は血塗れの神殿だ。このような建物で祈りを捧げる事自体が神に対する冒涜だ。」
グルンデルはハッとした顔になる。
「申し訳ございません。承知いたしました。我らはここから立ち去ります。」
そう言うとグルンデルは大神殿から離れる。
「こ、この大神殿を破壊するだと!そ、そんな事は許されぬ!この大神殿には召喚の魔道具が安置されているのだぞ!そ、それを壊すなどふざけるなっ!この大神殿は我の物だぞっ!」
ここまでしても女神の事を想っての言葉は出ないか。
それはそうだよな。
お前は女神ウルスエートを信仰などしていないのだろう。
お前が信仰しているのは、聖王たる自分自身だ。
「聖王様!お逃げ下さい!」
ほう。
あくまで騎士団長は聖王を庇おうとするか。
信仰からなのか、自分自身のためなのかわからないが、殺すのはもったいないか?
俺は手を使い騎士団長を払い除ける。
騎士団長は木の葉のように飛ばされて、しばらく転がって止まった。
やばい‥
やり過ぎたかな?
死んでないといいけど‥
俺は身体の中の光熱を喉元に集める。
口を開き、その光熱を集中させる。
「やめよ!やめるのだ!ト、トカゲ風情が!この大神殿の価値がわからんのかっ!これが破壊されれば勇者が召喚されぬのだぞ!魔王が現れたらどうするのだ!倒せるものがいなくなるのだぞ!世界が滅びるのだぞ!」
そんなもん知るか。
魔王?
そんな物俺が倒してやるよ!
魔王でも何でもかかってこいや。
それにお前が心配せんでも、魔王を倒せる者は現れる。
俺がそうであるように、異世界から召喚しなくても倒せる奴が必ず現れる。
この世界の事を、他の世界の奴に尻拭いさせるな。
勇者が現れるのはお前の意思じゃない。
世界の‥この世界に住む者たちの意思だ。
俺は喉の奥に集まった光熱を一気に放射させる。
放射した閃光は大神殿とそれを庇うように立っていた聖王ごとその場を焼き尽くした‥
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